さてさて、前回の続きです
係りの人の 「一時間喋ってください」 に更に血の気が引く
手持ちの資料ではもって三十分ほどだ。
係りは更に続ける 「その後、一時間の質疑応答とさせていただきます」
オシッコをちびりそうになるのを必死でこらえ、姐御と壇上に上がる。
壇上から客席を眺めると、ご来賓の皆様の好奇の目が
注がれておりますものですから冷や汗タラタラ。
このただの23歳と一ヶ月の偽教師のニッポン人の
クソみたいな日本経済論を聞きにこれだけの数の人間が
姐御によってだまされようとしているのだ。
しかもおれの集めた資料は
「日本経済論」というより「現代の日本の若者」だ。
会場までわざわざご足労頂いた皆様大変申し訳ございません。
皆様の勉強意欲と期待を、私は見事に踏みにじります。
ご勘弁下さい。
悪いのは全て、この事態を引き起こした、
人を騙すことを屁とも思っていないこの姐御。人間にあらず。
こうなったら必殺技だ!
ゴリ押し、行き当たりばったり、この二つしかない。
あとは、どうなろうと知ったことではない。
おれをここに連れてきたというミスをおまえが恥じる番だ姐御!
ざまあ見やがれ!あははは!ば~か!ば~か!
よしよし良い感じだ、開き直れてきた
何とかなりそうな気がしてきた!
さあ、いくぞ!世にも見苦しい偽教師講義の開始だ!
紹介をされ、挨拶をする
「ほっ!ほわぁ!本日はぁっどどううううもお招きに~預かかりありやとうぐぉざい ばす。」、
き、きゃ~!なんと!声が裏返ったではないか!裏返ったではないか!
通訳をするために横にいる姐御が
「ぷっ」
「ぷっ」じゃねえ!コノ野郎!
誰のためにこんな目に会ってると思ってんだ!くそが!ころすぞ!
会場からは、ちらほら笑い声が。
これでおれにはもう守るものは何もない・・・・・・・
あるのはこいつに対する殺意だけだ
殺意だけがおれを支えてくれる。
まとめてきた資料を出来るだけ時間を稼ぐために、
余計なことを間に挟みつつ、ゆっくり、話す。
そして、50分くらいダラダラとなんとか話しきった。
拍手
そして、息つく暇もなく質疑応答に入る。
な、なんと100人くらいが手を上げているではないか!
進行係も戸惑っている。こっちは息が詰まりそうだ。
中国は論議大国なので厳しい質問が矢のように飛んでくる。
数値や、実績などの具体的な資料は一切用意してきていなかったので、
ごまかしごまかし、濁し濁し、なんとかしのぐことだけを考えていた。
そこで進行係が一番前に座って手を上げているメガネの女の子を指名した。
「え~私はこの大学で経済を学んでいる○○と申します。
○○先生に質問があるのですが、
先ほど先生は日本経済の発展は‘ものづくり‘から、
違う方向にシフトしていくことになるでしょう。
と、おっしゃいましたが、
では具体的にどのような方向に進むべきだとお考えですか?」
この発言におれは耳を疑った。と同時に
血の気がサーっと音を立てて引いていった。
それはなんと完璧な日本語だったのだ。だったのだ。
実は話の途中、何度か
「これは経済に関係ないから言わなくていっか?」 や
「こんなの中国人に言ってもわかんないよね~」 とか
「今から、資料にないけど時間稼ぐために適当に言うから」 とか
「そんなウザイ質問すんじゃねーよブス」 とか
「またこりゃ面倒くさいね」 など
中国人だらけで、どうせ誰も日本語はわからないだろうと、
たかをくくって、適当な、教師らしからぬ
サイテーな発言をマイクを通して連発していた私でした。
この距離だといくら小声で話してもマイクを通していたら
まる聞こえだろう。
死にたいと思った。
これにはさすがの姐御も 「ヤベっ」 て顔。
だけどさすがで、うま~いことごまかしていた。
なんとか一時間逃げ切り、(傷だらけだが)
進行係が講義の終了を告げた。
このときの安堵感といったら、
その場にへなへなと崩れ落ちて、
泣きながらオシッコを撒き散らしそうだった。
この日を境に一時期、人間不信に陥った。
(安慶の街に戻ってからは2,3日っ引きこもった)
そして二度と、姐御の言うことを丸ごと信用することは無くなった。
こいつの言うことには全て裏と思惑があり、
それを見抜けないおれが馬鹿なのだと思うようにした。
そうすることにより、
姐御の考えが手に取るように分かるようになっていった。
そのため、姐御の右腕という仕事が増えていき、
ますます、便利に利用できる存在になってしまった。
殺意さえも、自分の仕事に利用するとは、
見上げた野郎だ。
この女に着いて行って多くの経験をすれば
自分もすごいことになるだろうと判断し、
いまだに家畜のように働かされている。
(たぶんいいように洗脳されてるんだと思います)