以下ネタバレです。
名前は○○です。
結局、外出の話は立ち消えとなり、
夕食を食べ終えた私は、ユーリに部屋まで案内された。
ユーリ 「ここが、○○様の部屋だよ」
(豪華な部屋だな…)
ユーリ 「今日は色々あって疲れただろうから、ゆっくり休みなよ」
「うん…ありがとう、ユーリ」
ユーリを見送ると、私はベッドにそっと腰掛けた。
ふかふかのベッドに、心地よく身体が沈み、ゆっくりと横になる。
(…今日は、いろんなことがあったな…)
アラン 「ま、お手並み拝見だな」
ルイ 「俺は、君にプリンセスが務まるとは思えない」
ジル 「貴女なら、きっとふさわしい人間を選ぶ」
(…プリンセスなんて)
(私、本当にやっていけるのかな…)
考えているうちに、まぶたが重くなり、
私は、いつの間にか眠りに落ちていた…。
小鳥のさえずりが耳に響く。
(ん…朝…?)
(えっ…ここ……)
慌てて起き上がって、辺りを見回す。
(…そうだ、昨日お城でプリンセスに選ばれて…)
その時、にわかに部屋の外が騒がしくなる。
ユーリ 「……!……!」
(ユーリの声?)
ドアを開け、そっと廊下の様子をうかがう。
ユーリ 「国王様が…っ!」
(一体、何が…!?)
(…国王様……?)
聞こえてきた言葉に戸惑う。
廊下へ出ると、ユーリはそのまま、慌ただしくどこかへ駆けて行った。
(一体、何が…)
ユーリが来た方へ思わず駆けて行くと、
近くの一室から人の話し声が漏れ聞こえてくる。
扉を見ると、そこには、ひときわ豪華な装飾を施されていることに気付く。
(ここは…?)
ドアの向こうから、複数の男性の声が聞こえる。
(…何か揉めているみたい…)
男1 「国王陛下、よりによってこんな時にお倒れになるなんて…」
「っ…!」
(今、何て…?)
(陛下が、倒れられた…って)
男2 「我々は、どうすれば良いのですかっ…!」
口々に叫ぶような言葉が交わされる中、ひとり落ち着いた声が聞こえてくる。
?? 「…皆、すまないな」
(これって…陛下の声?)
国王 「しかし、そんなに慌てずとも、プリンセスがいるではないか」
(っ…)
陛下の言葉に、どきりとする。
(プリンセス……それってつまり…)
--- ジル 「貴女が、この国のプリンセスです」 ---
ジルの言葉を思い出す。
自分のことを言われているのだと思い、途端に居心地が悪くなる。
(私は、まだ決心がつきかねているのに…)
思わず扉から目を逸らすと、再び部屋の中から声が聞こえてきた。
男1 「そんな悠長なことを言っていては…!」
男2 「王座が空いてしまえば、シュタイン王国が侵攻してこないとも限らないのですよ…!」
(シュタイン王国の……侵攻…)
不穏な言葉に心臓が跳ねる。
男1 「あのような大国がもし我が国に攻め入れば…」
「この国はどうなってしまうか、わかりません」
(そんな…)
色々な考えが頭の中を渦巻き、指先が段々と冷たくなっていく。
(もし、シュタイン王国が侵攻してきたら、きっとみんなもただじゃ済まない…)
城下の子供たちの姿が頭を過る。
(私は…)
プリンセスに指名された責任を、改めて感じる。
(それらを背負う…覚悟はあるの?)
その時、ふいに後ろから手が伸びてくる。
「っ…!?」
私の身体を背後から抱きしめ、誰かが耳元で囁く。
??? 「○○ちゃん、何て顔してるの」
「な…っ」
身動ぎをして振り向くと…。
「レオ様……っ!?」
レオ 「レオって呼んでって言ったでしょ?」
私を抱きしめたまま、レオは緊迫した空気にそぐわない軽い調子で笑う。
レオ 「返事は?」
「…っ」
耳に息を吹きかけるように囁かれて、身体が竦む。
「離してください…っ」
レオ 「えー?どうしようかなぁ…」
レオの手が腰に回ってくる。
(…っ!)
思わず身を捩ると、レオは苦笑しながら言った。
レオ 「嫌がらなくても良いのに…」
「…国王陛下の一大事に、こんなことをされる方がおかしいと思います…っ」
(そうだ…)
陛下が倒れ、今この国は窮地に立たされている。
(王座が空いてしまえば、シュタイン王国が侵攻してくるかもしれない…)
(そうなれば…)
私が顔を俯かせると、レオの手がこちらへと伸びる。
レオ 「ねぇ、『プリンセス』」
レオはそっと、私の眉間に指先で触れた。
レオ 「何か、小難しいことを考えてたんでしょ」
「君みたいな可愛い子が、そんな顔する必要ないよ」
僅かに顔を上げると、薄く笑うレオと目が合う。
レオ 「だって、君には関係の無いことでしょ?」
(…関係、ない…?)
レオ 「『プリンセス』なんて言っても、まだまだ名ばかりなんだし…」
「ジルに任せておけば、だいたいのことは丸く収まるよ」
「それは……」
(そうなのかもしれない、けど…)
ぐるぐると、色んな事が頭を巡る。
(私がこのお城に来たのは)
教え子の、曇りのない目を思い出す。
(あの子の願いを、叶えるためだった…)
(でも、それはきっと…)
ギュッと指先を握る。
(私は……あの子の、教え子たちの笑顔を、守りたかったからなんだ)
(だとしたら…)
しっかりと、顔を上げる。
(もう、関係ないなんて…言えない)
目の前のレオを見据えて、きっぱりと言った。
「私は……」
「そんな無責任なこと、できません」
レオ 「○○ちゃん…?」
私はレオに構わず、目の前の大きな扉を押し開いた。
「失礼します…!」
アラン 「お前…」
ルイ 「…!」
ジル 「…○○様…」
そこには、官僚たちに囲まれ床に臥す国王と、
アラン、ルイ様、ジルが顔をそろえていた…。
ジル 「・・・・・」
ジルは、突然部屋に入ってきた私に、どこか不安げな表情を浮かべている。
こちらを一斉に見た官僚たちの視線は、驚きから刺々しいものに変わっていく。
(ここで、しっかりしないと…)
穏やかな笑みをたたえた男性が、ベッドの上からこちらを見つめている。
(この方が…国王陛下)
緊張でこわばる気持ちを抑え、口を開く。
「…初めまして、国王陛下」
「○○と申します」
国王 「…ジルから聞いているよ」
国王陛下と私のやり取りに、官僚たちは不安げに眉を寄せた。
官僚のひとりが、小さく呟く。
男1 「…ぽっと出の人間に、何が出来る……」
その一言に、息が詰まるような感覚を覚える。
(でも、それは事実だ)
居心地の悪さに、胸の奥が締め上げられるような感覚を覚える。
(……それでも、私は…)
「国王陛下、私が…」
ゆっくりと、けれど、あるだけの決意を込めて…口にした。
「私が、『プリンセス』を任せて頂くことになりました」
「よろしく、お願いします」
震えそうになる足に力を込め、深く頭を下げる。
(そう……まだ、私に何が出来るかなんて、大きなことは言えない)
(ここに、『プリンセス』として立つことが、今の私の精一杯だ)
それでも、決して無関係ではないことを…
自分の言葉で、はっきり伝えたかった。
頭を下げたままでいると、国王陛下の声が降ってくる。
国王 「…頭を上げなさい」
その言葉に背筋を伸ばすと、陛下は大きく頷いてくださった。
国王 「…よろしく、『プリンセス』」
(あ……)
官僚たちは、まだ不安げにしていたけれど、
国王陛下の落ち着いた一言に口を閉ざした。
国王陛下は淡く笑う。
国王 「こんなしっかり者のプリンセスなら、いつまた倒れても大丈夫だな」
ジル 「陛下、こんな時にご冗談はやめてください」
国王 「こんな時だからこそだよ、ジル」
国王陛下の言葉に、ジルは小さく息をついた。
ジル 「…とにかく陛下のお身体に障ります。皆様、外へ」
ジルに促され、国王陛下を囲んでいた官僚たちは退出していく。
(……私…)
その姿を目で追っていると、アランが私に近づいてきた。
アラン 「おい、○○」
どこか好戦的な目で見下ろされ、息を呑む。
アラン 「俺は、名ばかりで偉そうにしてる奴は信用しねぇ」
「そんな奴を守るために、命賭けてるわけじゃねぇからな」
「…あんだけ吠えたなら、それなりの行動で示して見せろよ」
「…っ」
私の言葉を聞くことなく、アランは颯爽と行ってしまった。
(…アラン……)
(でも、ああ言ってくれたってことは…)
(少しは、『プリンセス』として認めてくれたのかな)
アランの背を追っていると、ふと視線を感じ、そちらへ目を向ける。
(……?ルイ様?)
けれどそれはほんの一瞬で、目が合った瞬間、逸らされる。
(ルイ様は、どう思ったんだろう…)
複雑な気持ちでルイ様を見つめていると、ジルがルイ様に声を掛けた。
ジル 「ハワード公爵、ご足労いただき恐縮ですが」
「国王陛下もこの状態ですので…」
ルイ 「わかった、また出直そう」
(公爵…!?)
(やっぱり、そんな身分の方だったんだ…)
ルイ 「陛下、ご自愛くださいますよう」
国王 「ああ…ありがとう、ルイ」
ルイ様は私に視線を向けることなく、部屋を出て行った。
国王 「ジル、…プリンセスに、これを」
ジルは、国王陛下から何かを受け取ると、こちらへやってくる。
ジル 「○○様…こちらへ」
私が国王に一礼すると、国王陛下は優しく微笑んで頷いた…。
ジル 「先ほどの挨拶、見事でした」
「いえ、私は何も…」
ジル 「あのような気概を見せて頂くと…教育のしがいもあるというものです」
ジルが、私の顎に手をかける。
(え…?)
ジルが私の顎に手を掛け、小さく笑う。
(え、これってどういう…)
ジル 「…そのままで」
ジルは、私から手を離すと、髪に何かを付けてくれる。
レイナ 「これは…?」
そっと手で触れてみる。
(これって、ティアラ…?)
ジル 「国王陛下が、貴女をプリンセスとお認めになられた証…ですよ」
ジルの冷たい手が、私の頬にそっと添えられ、その顔が近づく。
(……っ)
ジル 「国王側近は代々…プリンセスの教育係を兼任します」
「よろしくお願いしますね」
(か、顔の距離が近すぎて……)
私が思わず頷くと、ジルは優美に微笑む。
ジル 「…本当なら、今日からカリキュラムに入りたかったのですが…」
「私は陛下の容体が安定するまで、ついていなければなりませんから…」
「今日は一日、羽根を伸ばして頂きましょう」
ジルは私から身体を離すと、廊下の奥へと声を掛ける。
ジル 「ユーリ」
控えていたユーリが、私たちに近づいてくる。
ユーリ 「はい、ジル様」
ジル 「○○様に不便が無いよう、お世話をお願いします」
ユーリ 「わかりました」
ジルは踵を返し、国王陛下の部屋へと戻って行った。
それを見送ると、ユーリが訊ねてくる。
ユーリ 「…国王陛下や官僚たちの前で、宣言したんだって?」
(そんな…)
「宣言なんて言うほどのものじゃないよ…」
(でも……)
わずかに、心に温かいものが灯るのを感じる。
「国王陛下に、ああ言って頂けて…」
「『プリンセス』として認めてもらえて、良かった」
ユーリ 「そっか…」
ユーリは短く返事をし…そして、少しだけ表情を曇らせた。
ユーリ 「でも…」
「○○様には○○さまの生活があったはずなのに」
「本当にいいの…?」
「それは…」
(そうだ、確かに…ひとつだけ)
(ひとつだけ、心残りがある…)
「ユーリ、お願いがあるんだけど…」
ユーリ 「なに?」
(身勝手なお願いだって、わかってはいるけど…)
それでも、と思い…口にする。
「今夜一晩だけ…」
「お城を抜け出すのを、手伝って欲しいの」
真夜中、皆が寝静まった頃。
私はこっそり部屋を抜け出した…。
(ちゃんとあの子と話して…もう一度、お城に戻って来よう)
私は、花を持って帰ると約束したあの子に会うため、
ユーリに頼んで城を抜け出そうとしていた。
(『先生』の務めも果たせないんじゃ、きっと、『プリンセス』なんて務まらない…)
誰もいないことを確認すると、玄関へと通じる廊下を一気に駆け抜けた。
0時を告げる鐘が鳴っている。
絨毯の敷かれた階段を、ドレスの裾をたくし上げて駆け降りる。
(……急がないと)
視線の先には立派な馬車と、
ユーリ 「……」
苦笑いを浮かべたユーリが立っている。
(…夜中にこんな風に抜け出すなんて)
(駄目なことだってわかっているけど……)
(あの子の『先生』としての、最後の仕事…)
(ちゃんと果たさなくちゃ)
その時、弾かれたように身体が宙に浮く。
「っ…!?」
慣れないハイヒールが脱げて、大きくつまずく。
ぎゅっと目を閉じた瞬間。
(あ……)
気が付くと、力強い腕に抱きとめられていた。
??? 「『プリンセス』がこんなところで何をしている」