泣けるって ボンヤリしてるな 嬉し涙 悔し涙 怒りの涙 不条理の涙と 色々あるからさー
映画ってその時はつまらないと思っても その後 縁あって再び観ると 涙したりするから不思議
これなんかは再放送される機会が多く 最初は映画館で見て 別にーだったけど 数年前に見た時はそれぞれの環境で育った子どもたちが
共通の思い出を抱いて 人生も色々だったけどそれを 見守る視線が優しく感じて泣けた 今はどうかなっと思う
ヘソクリスはこの不条理に涙する?
四十八
母の声が消え、黒いオーラも静かに薄れていった。部屋には、寄り添ってくれる相棒のスリップ。

ヘソクリスは深く息をつき、スリップの頭を撫でながら、「……行くしかねぇか」とつぶやく。
翌朝になり、ヘソクリスは、強面モテ商事のエントランス前で背をシャキッと伸ばし、頬をパンパンと叩いた。
タンポキング黎明期、彼らの金銭感覚は狂っていた。仕入れの代金?「払う気あるわけないでしょ」。借金?「それもうタンポキングの資産でしょ?」と真顔で言う始末。
当然、商品を卸していた強面モテ商事はキレた。「タンポキング、お前はもう死んでいる!」と、
全員一致で倒産宣告寸前。だが、その時、商品開発部部長がフフッンと笑い、「代替肉、試してみませんか?」と悪魔の囁き。
肉の正体は……まあ置いといて、とにかくタンポキングは生き延びた。しかも信者(ファン)たちは「うめぇ!ジューシー最高!」と狂喜乱舞。
強面モテ商事も「肉の正体は墓場まで」と決め込み、原価マイナス価の品物をその錬金術で金に換えホクホク顔。だが、この代替肉の秘密を見抜いた男がいた。
ヘソクリスの父親である。彼は婿養子として迎えられたが、期待されたのは種馬としての役割だけ。その役割さえも果たせず、虐げられ、孤独に寂しく生きていた。
ある日、強面モテ商事の肉を食べた父は「なんかコレ、生臭くね?」と違和感。調べたら案の定、肉はとんでもない素材だった。
父は強面モテ商事に報告すると、強面モテ商事の役員は即対応。「バレたのがヒス(正妻)じゃなくてマジ良かったー!」と胸を撫でおろしつつ、父親に取引を持ちかけた。
「愛人やるから、黙っとけ」孤独だった父親は即決。愛人とウハウハの生活へ突入。タンポキングの闇なんて忘却の彼方とばかりに忘れた。
だが、ヘソクリス誕生と共にその楽園は崩壊。愛人は正妻の執拗な嫌がらせで病死。父は愛人ロス&借金地獄で奈落落ち。ヘソクリスは孤児院送りとなった。
強面モテ商事の役員たちは「肉の秘密は墓場まで」を合言葉にしつつ、「ま、結果オーライ?」と乾杯。
だが皮肉なことに、父親とヘソクリスはこの肉の秘密を知る数少ない生き証人となった。