ハンサムのマスクを装着していると、リップールの心は、あの日へと遡っていた。揉めメディアがキラキラ輝く瞳で、パラレルワールドでの冒険を語った日。

バーチャルカレンシーシティーに1本しかない本物の銀杏の大木の根元に、揉めメディア、ハンサム、そしてリップールがいた。

木は新緑に茂り、空は青く、南風が心地よく吹き抜けていた。「ボタン兄妹を助けた!」と、興奮に満ちた声でまだあどけない揉めメディアが話す。リップールには、その光景が目に浮かぶようだった。

揉めメディアの声は、異世界の景色、ボタン兄妹の可愛らしさを伝えていた。そして揉めメディアは大空から舞い降り、

ボタン兄妹を救ったものの妹は海に落ち、彼らは突風に巻き込まれて、また、別のパラレルワールドに運ばれた。

兄を美しい港町まで運び、その時になって、自分はどうしようと慌てて気付く。途方に暮れているうちに、

茜色の空はやがて暗くなり、空を見上げるとそこには牡羊座が輝いていた。君は声を弾ませて、

「ご先祖様って、心で唱えたら、進むべき道が空に見えたんだから、不思議なことって、まだまだあるね!」と、真顔で言って、首をすくめた。

直面した困難を鮮やかに描き出したあの時の君は、牡牛座の金の羊も顔負けの神々しさに見えた。しかし、ハンサムは

「夢でも見たんだろう」と、場を白けさせるようなことを言ったのに、君は「やっぱり夢かしら?」と、楽しそうだった。


元凶はハンサムだけど、何時だってなにも言えやしなかった僕も罪人。結局は君を苦しめた。

そして、これからする事も正しい選択ではないのかも知れない。でも僕と君が、違う、僕が幸せになる手段を僕は他に思いつかなかったんだ。

僕の幸せ、君に僕が必要なくとも、僕には君がいなけりゃあ、僕は幸せになれないんだよ。嗚呼、矛盾してる。ゴメン、僕は本当になにが正解か分からない。



続く。