クッチは小間物町の外れにある廃業した病院前に立っていた。無論アルサーの3番目のアイテムは「悲嘆の包帯」。
これまで浮かれ気分で冒険に出発していたけれど、今回は幽霊が出て来そうで足がすくむ。
夢の島では魂の浄化を手伝ってはいたけれど、一人ではなかったし、場所も不快で過酷な環境ではあったけれど、
広々とした空の下の解放感はあった。
だと言うのに今回はクッチの嫌いな「恐怖で震え上がり、尿意を催してしまう」のお膳立てされていそうな場所。
金を払ってでも行きたがるモノたちもいるけれどチキンなクッチには全く理解できないことだった。
クッチは深呼吸を一つし、恐る恐る廃屋の門をくぐった。薄暗い待合室を抜け、診察室へと足を踏み入れた。
埃っぽい空気に加え、かすかな腐臭と消毒臭が鼻を突き、思わず顔をしかめた。床は埃で覆われ、ところどころ穴が開いており、一歩足を踏み外せば奈落の底へ落ちてしまうような危険を感じさせた。
クッチは懐中電灯の明かりを頼りに、診察室の中をゆっくりと見渡した。かつて患者たちが診察を受け、
苦しみや痛みに耐えたであろう椅子たちは、埃にまみれ、座面のスポンジがむき出しになって、脚は不自然にひん曲がっていた。
まるで、ここにいた患者たちの苦痛をそのまま映し出しているかのようだ。クッチは「もう、死んでるよね」と独り言を言って手を合わせた。
すると窓辺に置かれていた木製の骨格モデルが嬉しそうにカタカタ鳴った。クッチは恐ろしさのあまり、床にしゃがみこんでシッコをチビった。
続く。