バーは、そんな優子の姿を見て悲しみに暮れた。そして、木霊晒しの能力を使って、健太が美味しそうに弁当を食べる姿を幻視させようと試みた。
けれどモノのチカラ、ましてや木霊晒しはモノがプライベートで楽しむ能力でしかなく、者に幻視を魅せるチカラなどなかった。
しかしそれは優子の見たい景色でもあり、優子には慰めが必要だった。認知バイアスは敏感にバーの言霊晒しに反応した。
優子は手作りの弁当を美味しそうにパクパク食べる健太を見た。タコさんウインナーに刺した爪楊枝までもが喜んでいるように見えた。
優子は幸せだった。
しかし、周囲から見ると、それはまるで優子が独り言を呟きながら弁当を食べる不気味な光景にしか映らなかった。
挙句の果て、心配した通行人が通報し、優子は救急車で病院へ運ばれてしまった。弁当はそのドサクサに紛れて、ベンチから落ち散乱した。
バーもまた泥だらけになり、弁当を狙っていた鳩たちに突かれ腰を折った。
それ以来、バーは木霊晒しの能力を失ってしまった。優子も健太との関係に進展するはなかった。
バーはその後、様々な場所をさすらいながら、今の境遇に落ち着いたけれど、木霊晒しのチカラを取り戻すことはなかった。
バーは時おり優子を思い出し、浅はかな自分の行動を責めた。もしあの時、自分が違う景色を見せていたら、違うことを聞かせていたら
優子は刹那な幸福ではなく、慎ましく、暖かく続く幸福を得られたかもしれないと思うと、自分を許すことは出来なかった。
続く。