私に出来ることは、残された9人の兄弟たちに主のA4コピー用紙を落とさぬように、シッカリ主のお役に立つようにと言い残して去ることだけだったのです。

主は今頃、私を探しているかもしれません。自分がファイルを無くしてしまったと、御自分を責めているかもしれません。

私は捨てられるまで主のおそばにいるのが使命でした。それを自分勝手な真似をしました。

悲しんでいるかもしれない主を残して私は成仏なんて出来ません。」と言ってまた泣いた。

クッチは呆れたと思ったけれども、この難局を乗り越えなくてはと肩にチカラを入れて、両手をグッと握った。



「ファイルさん、私はこれからあなたに酷い事を言うかも知れないけれど聞いてね。あなたの主は素晴らしい方です。

そんな方と出会えたあなたは幸せモノ。だからこそ考えてみて!汚いファイルを使っているそんな、ちっぽけなことでさえ嘲笑され、批判されるような厳しい世界。

主がボロボロでガムテープで補修されたファイルに執着して、その喪失に明らかに動揺してる姿を仲間たちに見せたらどうなると思う?

眉をひそめ、あざ笑う声、背後の憐憫のささやきが聞こえてくるわ。主がどんなに親切でも、いえ、善い人だからこそ、そんな詮索から逃れることはできないの。



でも、重要なのは主はあなたの腹が裂けていても、むしろそれがあるからこそ、あなたを大切にしてきたって事。

続く。