便トレーは屁とも思わない態度で「アブナイト?知らないね。アンタみたいな別嬪さんと一晩、危ナイトなら
歓迎だけどな、どうせアンタも俺がそいつを盗んだとか言い出しに来たんだろ?」とすごんだ。
クッチは屁っぴり腰になりつつもまた、お燗の飲みたくなる悪寒に襲われ「絶対、黒、コイツ鼻つまみモノの放火魔、モノは見た目が大事だっちうの」と独りごちた。
観光客のご機嫌を損ねては大変と、村人は怒鳴り声を響かせた。「お前、また何かやらかしたのか!
悪事を働いても天罰は下るぞ!火事のあった日、お前と母親が広場で口論しているのをこの目で見たんだ!知らぬ存ぜぬでは済まされない!」
便トレーはガックリと膝をつき、「喧嘩なんて…あれはお袋と俺の挨拶みたいなものだったのに……苦労して育ててくれたお袋をどうして俺が手にかけるんだい!
火事は俺じゃない、本当に知らないんだ!
いや、あの日、火の手が家にあっという間に回って、
パニくった俺は、お袋を置いて逃げ出した。今になって、その罪の重さに押し潰されそうになる。
呼吸をするたびに、お袋の優しい笑顔が頭に浮かぶ。その笑顔が、俺を苦しめる。「…俺は…なんてことを…」しかし、俺はここで倒れるわけにはいかない。
どんな言葉を浴びせられようとも、俺は生きていく…母親が愛したオールドファッションカーネーションを、一人でも多くの人に知ってもらいたい…
カーネーションを育てることは、お袋の人生そのものだったんだから……便トレーの言葉は途切れた。彼の目は涙で潤んでいた。