奇心を抑えきれずにクッチは村人に尋ねた。「あの、その便トレーさんはレモネードに異物でも混入したんですか?」

村人は首を横に振り、「いや、違うんだよ。便トレーは十年くらい前に、火事を起こして女手一つで育ててくれた母親を亡くしたんだ。

火事は不審火で、便トレーが放火したんじゃないかって噂になってね。今は村はずれで、わずかな田畑を耕しながら、ひっそりと暮らしてるんだよ。

お客さんは近寄らない方がいいよ。せっかくの旅が台無しになるかもしれないからね」と答えた。

クッチは、村人の言葉に複雑な思いを抱いた。確かに、便トレーは村人たちから嫌われているようだが、何か裏がありそうな気もする。

「あの…、便トレーさんに会ってみてもいいですか?」クッチは恐る恐る尋ねた。

村人は目を丸くして、「えっ!?どうしてそんな…まあ、無理強いはしないけどね。でも、危険な目に遭っても知らないからね」と心配そうに告げた。

クッチは決意を込めた声で、「大丈夫です!自分の目で確かめたいんです!」と言い放った。

村人は客足が鈍いこの時期に、観光客からSNSで悪く書かれるのは困ると考え、何も言い返すことができなかった。飛んだカスハラに遭ってしまった気もした。

村人の案内で、クッチは便トレーの家へと向かった。村人は、何かあったら大変だと、クッチの付き添いを申し出た。

クッチは村人の好意に感謝し、二人で村はずれの小さな家を訪れた。

粗末なトタン屋根と壊れたベニヤ板のドア。クッチは恐る恐るドアをノックしたが、返答はなかった。

村人が「おい、誰かいるか?」と声をかけたが、やはり返事はない。二人は裏庭に回ってみることにした。

すると、そこには一面に咲き誇るオールドファッションカーネーションが広がっていた。重なり合うピンク色のフリルのような花びらが風に揺れ、甘い香りが漂ってくる。


続く。