クッチの前に現れたのは、定年前後と思われる初老の男だった。男はシワの多い白い顔で、どこか頼りない印象を与えた。


ガイドは「村長」と親しげに声をかけた。「落とし紙さん、村長になってもう3年になるんですか?

岩落とし市役所を定年退職してすぐに村長職に鞍替えなんて、退職金もたっぷりもらえたでしょうね。羨ましい限りですよ」

ガイドは自分の境遇を嘆く。「私なんか、あなたと同い年なのに、いまだに二品中を歩き回らなきゃいけないんだ。おまけに不景気で退職金も当てにならないからねえ」

村長は笑顔で「なーに、こっちも、なんにも残ってませんよ。濁点と丸損からのお取り寄せ、お取り寄せで、二品各地の農産物を食べ尽くして、


全部ピーピーとうんこにしちゃいましたから。ここはピーピー村ですから当然ですわな。それにしても、あなたは会うたびに愚痴ばかりですよ。」

ガイドは額に手を当てて、「アハハ、ここは山愚痴県で、お客様もグッチさん。ですから、ついグッチばっかりになって、申し訳ない」と笑った。

クッチは二人の会話を聞きながら、そのダジャレの寒さに寒気を覚えた。思わずゾッと体が震え、「悪寒がするからお燗でも飲むか」と口に出してしまった。しかし、その瞬間、自分自身にもゾッとした。

村長はクッチの荷物を持とうと手を差し伸べたが、彼女の荷物は全てその腹の中に収まっているようだった。

村長は肩をすくめ、「遠いところをはるばるお越しいただき、ありがとうございます。二泊三日と短い期間ではありますが、村を存分に楽しんでください」と笑顔で挨拶した。

続く。