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夏目ボンボンは自分の苗字が嫌いだ。なぜなら彼は夏に弱く、気分は「夏めッ!!」だから。では秋田さんなどはよさそうなものだけれど、これは「飽きた」と言われそうで秋も駄目。

春日さんはきれいな響きで素敵だけれどこれも「カスが!!」と言われているようで気に食わない。冬は冬で寒いのも嫌いだとこれも却下。

 

どんな苗字を付けようと彼は被害妄想が激しいので無駄。そんな彼が先日、飴野包子派遣から仕事の依頼を受けて、寒村の農家で留守番の仕事をした。この村のある地方では異常気象が続き農作物が育たなくなっていた。

 

初日は半袖でも汗が噴き出るほど暑かったのに半日もしないうちにグンと気温が下がり、小雪もちらほら。ボンボンは帰りたくなったけれど、家主は雪かき中に転倒骨折し入院中で、息子が戻ってくるまでの2日間は留守番をしなくてはならなかった。

 

畑荒らしが頻繁に起こるので夜と早朝に畑を見回るのが主な仕事。けれどもこの男、そんなことはめったに起こらないだろうと高をくくり、楽そうだからと仕事を引き受けた。そして1日ですでにやる気喪失。畑などはきちんと見回る気がない。

 

毛玉婆はこの村の廃屋に一人暮らしていた。食うや食わずの貧乏暮らし。その夜も彼女は起きていても腹が減るばかりだから寝てしまおうと早々に横になっていた。そこに一人の旅人がやって来た。彼は自分探しの旅をすると言っても無職の風来坊。

 

農村なら何か食べ物を恵んでもらえるだろうと考えてふらりとやって来たもののどこの家を訪ねても門前払いされ、仕方なくこの廃屋を尋ねた。どうせ誰もいないだろうとは思ってみたものの、一応、ノックすると中から毛玉婆が現れた。

 

一人暮らしで誰とも話をする機会のない毛玉婆はモノの姿を見て一目で気に入り、家にあげた。腹をすかしている旅人に何か食べさせようとしたけれど何もなく、ふっと、近所の農家が空き家状態なのを思い出し、その家の畑に向かった。午後から降り出した雪が積もってその雪明りでいびつな形の大根を引っこ抜くことが出来た。

 

そうして家に大根を持ち帰り、塩で大根を煮て旅人にふるまった。毛玉婆はねんごろに旅人をもてなし翌日の早朝に起きて、彼を旅立たせた。ボンボンは夜のみ周りはエスケープしたけれど小心者で眠れず、明け方起きて畑を見回った。大きく伸びをして空を見上げると青空がまぶしい。

 

気持ちの良い朝だった。けれど、大根が1本引っこ抜かれているのに気が付いた。

しかし彼は1本くらいなんだよ、と思ったし、雪の足あとが残っていたので犯人の家を見つけるのは簡単とも思い再び寝てしまった。彼が次に起きたのは昼過ぎで、また、うだるような暑さの中だった。

 

しまったと思い、畑に行ってみるともうすでに踪跡(そうせき)は消え、ボンボンが空を見上げると層績雲(そうせきぐも)が広がっていた。彼は無事に仕事を終えて帰ったけれど、給料明細を確かめるとしっかり大根代が引かれ、減給となっていた。