「バック・ビート」はハンブルグ時代のビートルズを描いた映画である。
全く無名だったビートルズにとってハンブルグ時代は過酷なものであった。
しかしその過酷な環境の中でバンドは急成長して行った。


そんな時にビートルズを訪れたのは写真家のアストリッド・キルヒャーとグラフィックデザイナーのクラウス・フォアマンであった。
インテリアから初めて認められたビートルズは有頂天になった。

ビートルズのメンバーだったステュアート・サトクリフは当時クラウス・フォアマンの恋人だったアストリッドと直ぐに恋に落ちた。
2人は一緒に暮らし始め、ステュはバンドを脱退する事になる。

この映画では密かにアストリッドに密かに惹かれるジョンの苦悩が描かれている。
しかし既にジョンは既婚者だった。

妻のシンシアはブロンド髪の可愛い女性。
家庭的でビートルズが有名になっても慎ましい、正に良妻賢母を絵に描いたような女性だった。
しかしジョンはシンシアに物足りなさを感じ始めていた。

それはインテリで自立した女性アストリッドと出会った事が影響したからではないか。
しかしバンドを脱退したステュは突然死する。
ジョンに殴られた後遺症という噂もあるが定かではない。

死の数日後、ビートルズは公演でハンブルグ空港でステュの母を待ち受けるアストリッドと偶然に出会う。
戯けた仕草でアストリッドに駆け寄ったジョンやポールはステュの死を告げられると言葉を失い、凍りついたという。
ピート・ベストは号泣し、ポールはアストリッドを抱きしめ、ジョンは涙が出るまで笑い続けた。
特に親友を失ったジョンの衝撃はいかばかりだったか。
このポートレートはステュの死を告げられた数日後に撮影されたものである。
ジョンとジョージの表情には悲しみというよりも魂を抜かれたような虚無感が漂っている。
アストリッドのビートルズのポートレートは貴重である。
陰影を生かしたポートレートはその後のビートルズのアートワークにも確実に影響している。

あのマッシュルームカットもアストリッドによるもの。
クラウス・フォアマンと同じ髪形にしてくれとビートルズのメンバーがアストリッド頼み込んだ事によって始まった。
写真を見るとピート・ベストだけがリーゼントのままである。

ハンブルグ時代からそんなに時が経たないうちにビートルズは巨大な存在になって行った。

ジョンは小野洋子と付き合い始め、シンシアと離婚。
小野洋子に無名時代に出会ったアストリドの影を見るのは私だけだろうか。

ポールも小野洋子同様に離婚歴のある子持ちのリンダと結婚。
何でもジョンの真似をしたがるポールらしいのだが、上流階級出身で写真家というリンダの経歴はアストリッドと全く同じである。
これは単なる偶然なのだろうか。
実はアストリッドを手に入れたステュにポールは激しく嫉妬したという話がある。

アストリッドはビートルズのメンバー3人から愛されたのである。
ジョージは当時17歳の子供だし、リンゴはまだビートルズのメンバーではない。

ビートルズはアストリッドと出会わなければ違った道を歩んだ事だろうし、あれ程巨大な存在にはなっていなかったのかもしれない。
ビートルズにとってアストリッドとの出会いはブライアン・エプスタインやジョージ・マーティンと並ぶ重要なものだったのである。

アストリッド・キルヒャーさんは5月12日に故郷のハンブルグでお亡くなりになりました。
享年81歳。
心よりご冥福をお祈り致します。