小室哲哉のメジャーデビューは何と岡田有希子への楽曲提供であった。
全く無名だった小室哲哉の起用は名プロデューサー渡辺有三氏の慧眼によるものだろう。
渡辺氏は中島みゆきや尾崎亜美のプロデュースで知られる敏腕プロデューサーである。
デビュー以来、岡田有希子を名プロデューサー託したとい事はレコード会社の岡田有希子への期待の大きさの証明である。

その小室哲哉なのだが、岡田有希子の3目のアルバム「10月の人魚」の冒頭とラストの曲を提供している。

冒頭の曲は「Sweet Pranet」。
最初から小室ワールド全開。
編曲の松任谷正隆の編曲も小室哲哉かと思わせるほど違和感がない。
おそらく小室哲哉のデモーテープを下敷きにしたのだろう。
この頃の小室哲哉は全くの無名。


渡辺美里の「My Revoluttion」は翌年、TMNの「Get Wild」は翌々年の発表である。

Sweet Prametはそれらの曲に劣らない素晴らしい曲である。
シングルカットしても大ヒットしたのではないか。
小室哲哉の曲は転調が多く、音域も広い為に歌い手に歌唱力を要求する。

か細い声の岡田有希子ではあるが、他のアーティストにはない透明感と繊細さを小室ワールドに付け加えている。
その後の小室哲哉には無い要素である。
岡田有希子はアルバム十月の人魚の発表に先行してシングル「哀しい予感」を発売している。
岡田有希子初の失恋ソングなのだが、出来は良くない。
歌謡曲っぽい哀しい予感でイメージチェンジを図ろうとしたのだろうが、SF的なSweet Pranetをシングルカットしていれば、新たな岡田有希子像を示す事が出来た事に違いない。
残念でならない。

十月の人魚ラストの曲が小室哲哉の「水色プリンセス」。
この曲も小室ワールド全開。
とてつもない傑作である。
松任谷正隆の編曲も完璧。

岡田有希子の表現はたどたどしい所もあるが耽美的ですらある。

少女にしか作れない一つの完全な世界を構築している。
しかし制作サイドは小室ワールドが表現出来ていないと落胆したという。
それだけ小室哲也のデモテープの出来が素晴らしかったのだ。

その後の岡田有希子の運命を考えると、この完璧に構築された美の世界から抜け出した事によって悲惨な運命を辿る事になってしまったのだと思わざるを得ない。

小室哲哉が岡田有希子に提供した曲はたったの2曲。
しかしそれは岡田有希子にも小室哲哉にとっても忘れられないものであった事だろう。
私は小室哲哉の事をそれほど評価していなかったが、岡田有希子へ提供した2曲によって小室哲哉が途方もない天才であった事を初めて知った。

この後、岡田有希子はディスコ調のLlove Fair」、そして、あれほど避けていた松田聖子が歌っても不思議がないどころか松田聖子作詞の「くちびるNetwork」と迷走して行く事になる。
あくまでアーティト路線で突き進もうとした制作サイドとサンミュージックの間で軋轢があったような気がしてならない。

しかし「くちびるNetwork」は大ヒット。
トップアイドルに上り詰めたが、その直後に自殺。
たった3年にも満たない芸能生活であった。
もし哀しい予感でなくてロンサムシーズンがシングルカットされていたら、Sweet Pranetがシングルカットされていたら、岡田有希子の人生が変わったのではないか。
それでも小室哲哉が岡田有希子に提供した2曲があって本当に良かった。
小室哲哉は岡田有希子の未知なる魅力を完璧に引き出した。

もし小室哲哉が示したアナザーロードを岡田有希子が歩んでいたらと思うと無念でならない。

Sweet Planet
水色プリンセス
Sweet Planet フアンタジアンコンサート