根来の隅切り折敷を所有しているのだが、些か大きい。
私は食が細く、晩酌の肴もほんの少しあれば良い。

目の前にご馳走が並ぶと食欲が失せてしまうのである。
幸田露伴は「多きは卑し」と言ったそうだが、私にはその事が理解出来る。


一回り小さな根来の折敷がある事は知っていたが、室町時代の折敷で、貧書生の私が入手出来るものではない。
しかしヤフオクを見ていたら小さな根来の折敷が出ているではないか。
時代は江戸初期。
縁が以上に低い。
こんな折敷は見た事がない。
珍品である。
こんなものがヤフオクに出ているとは!
何がなんでも落札する事にする。
案の定デッドヒート。
ライバルは一人。
せこく500円幅で終了間際に札を入れて来る。
ドカンと高額の札を入れたらタイムアウト。
無事落札。
ライパルは臍を噛んでいる事であろう。
こんな物は滅多に手には入らない。

後日折敷は届いた。
小包は驚くほど軽い。


開けてみると普通の根来の折敷である。
何となく拍子抜け。

しかし晩酌の際に使ってみると、俄に輝きだした。
やはりサイズが良い。

晩酌の肴は一品か二品なのだが、丁度良く収まる。
縁が浅いのも特に気にならない。

小振りな黒高麗にもヒッタリの大きさである。
これで毎晩晩酌が出来るとはこの上ない僥倖である。
やはり根来は良い。

うっすらと黒の地が透けて見える。
わざとらしく黒地を見せている根来には嫌悪感しか抱けない。
良い買物をした。
これは一生物である。
毎晩の晩酌に彩りを添えてくれる折敷きである。