松本清張も野村芳太郎も好きではないが、このコンビの映画は認めない訳にはいかない。
砂の器は最近亡くなった橋本忍氏のピアノ協奏曲「宿命」のコンサートと犯人特定する課程を同時進行させるシナリオが素晴らしい。
小川真由美は野村監督の常連。
影のある女を演じさせると絶品である。
こんな女優は今は見当たらない。
汚れ役を品良く演じるというのは大変な事である。
やはり小川真由美は昭和の大女優といって良いだろう。
鬼畜では岩下志麻と堂々と張り合っている。
岩下志麻は松竹に入社した当時は「駆けずのお志麻」と呼ばれる位、おっとりした性格なのだが、小津安二郎に抜擢された「秋刀魚の味」ではヒステリックな女性を好演。
これい以降、気の強い女を演じるようになった。
今更ながら小津安二郎の慧眼には驚かされる。
子供を産めない女の辛さ。
あろう事か妾に子供を三人も作られた女の惨めさ。
それが完璧に表現されている。
この後に緒形拳は今村正平監督の「復讐するは我にあり」で再び殺人鬼を演じているが、虫の様に人を殺す緒方の凶暴性の背景が描かれていない事に大いに不満を感じたものである。
これは緒方の責任というよりは今村正平に問題がある。
緒方の演技は鬼畜の方が断然素晴らしい。
それにしても子殺しという難しいテーマをよく映画化したものだ。
最近でも目黒で痛ましい事件があったばかり。
これも野村監督の演技指導なのだろう。
しかし後味の悪い映画である。
砂の器のようなカタルシスがない。
しかしこの難しいテーマを映画化した鬼畜は名作である。
キネマ旬報の最新号は1970年代日本映画ベストテン。
その第5位が復讐するは我にありで、第8位は砂の器である。
評論家は一体何を見ているのだろうか。
鬼畜は傑作である。
しかし二度と見たくない映画でもあるのである。