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私は人目もはばからない社長さんの男泣きの姿に胸を打たれていた…

ダンナの死を悼み大の男が声をあげてこんなにも泣いてくれている…

それと同時に垣間見た私が知らないダンナの側面…

ダンナが亡くなった当日にも、
会社の方からダンナのスマホに一通のメールが届いていた。


「中里さん!いったい何やってるんすか?
いきなり死んじゃうなんてあんまりじゃないすか…
起きてくださいよ!
寝てる場合じゃないっすよ!
俺そんなの聞いてませんから!
ウソでしょ…ホントに死んじゃったんすか…
これから俺は誰と飲みに行けばいいんすか…
悲しいっすよ…酷いっすよ…
今までホントにありがとうございました!
ゆっくり…ゆっくり休んでくださいね…」


そこに書かれていたのも、
ダンナの死がどうにもやりきれない男の悲痛な叫び…

私の知っているダンナは家庭人としてのダンナだけだ。

独身時代はダンナと一緒に仕事をしていた時もあったけど、
結婚してからは会社でダンナが周りにどう評価されていたかを知らない。


「中里さんはホント苦労人でね…
なんていうか…報われないことが多かったっていうか…」


柩に突っ伏していた社長さんがようやく顔を上げ、
涙でグシャグシャになった顔をハンカチで拭きながら話し始めた。


「…ね…ホントに…
ウチの会社に来てくれてようやく仕事も軌道に乗ってきたところだったのにな…
まだ53で逝くなんて…早いよな…」


ダンナと社長さんは30年来の知り合いだ。
私とダンナの結婚式にも参列してくれた。
だからダンナが冨樫さんと会社を設立してその後倒産した経緯も、
ブラック企業でダンナがボロボロにされたことも全部知っている。


「社長さんが主人を会社に導いてくださったお陰でようやく家族が安定した生活を送れるようになりました。
どん底から救っていただいた社長さんは言わば命の恩人なんだから、
恩返しするつもりで仕事に精進しなければいけないよと、
私は日ごろから主人に発破をかけていたんです。
ホントに私たちの今があるのは社長さんのおかげです。
短い恩返しになってしまい心苦しいですが、
今まで大変お世話になりました。」


私は社長さんにありったけの感謝を込めて、
もう一度深々と頭を下げた。

ブラック企業が給料未払いのまま倒産して、
一時は生活保護に近い生活レベルまで落ちた我が家を救ってくれた社長さん…

社長さんがあの時ダンナに声をかけてくれていなければ、
我が家はどうなっていたかわからない…

社長さんが言っていたように、
ダンナは今まで仕事の面で報われない時代が長かった…

脳出血を発症したのも、
ブラック企業でこき使われて疲労が溜まったせいではないかと私は今でも思っている。

もう少し早く…
ダンナが今の会社と縁を繋ぐことが出来ていたらと思うと悔やんでも悔やみきれない…

苦労人…

その言葉を聞いてダンナがブラック企業で身体を壊すほど働いてくれたのは、
家族の為だったことを改めて思い知らされる…

これからようやく報われるはずだったのは何もダンナだけではない。

ダンナと一緒にここまでやってきた私だってそうだ。


でも…


死んでしまったら何もかもおしまい…


私も報われないまま
また振り出しまで戻されてしまった…


ダンナを取り巻く男たちの物哀しい想いを肌に感じながら…


この葬儀で私は…


次々にダンナの新たな側面を垣間見ることになる…