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「こんなに高いネクタイ、
パパが生きてる時に締めたことがなかったからもったいないって言ってるかもよー笑」
迷いに迷った末に長女が選んだのはネイビー系のボーダーのネクタイ。
それもかなり奮発した金額だ。
「このソックスでいいかな?
ワンポイントが可愛いし…」
次女が選んだ靴下もスーツに似合うネイビーの靴下。
ブランドのワンポイントが気に入ったようだけど金額が少し高かった。
「ママが少しお金出そうか?」
「ううん。大丈夫。これにする!」
次女も奮発してなけなしのお小遣いからその靴下を買うという。
ダンナが生きていた時は、
こんなふうに母娘揃ってダンナのプレゼントを買うなんてことは一度もなかった。
それだけ私たち母娘とダンナの関係は殺伐としたものだったのだ。
生きているうちになんでこんな時間を持てなかったんだろう?
そう思うのはダンナがいなくなってしまったからこそ…
生きていたらダンナのために母娘でプレゼントを探し回るなんて、
もしかしたら永遠になかったかもしれない。
プレゼント用に包装してもらったネクタイと靴下には、
キレイなブルーのリボンがかけられている。
「きっとパパに喜んでもらえるよ!」
今まで娘たちが、
こんなに奮発したプレゼントをダンナにあげたことは一度もなかった。
いくら天邪鬼なダンナでもこんなプレゼントをもらったら満面の笑みで喜んだはずだ。
このネクタイを…
この靴下を…
生きて身につけているところを見たかった…
その気持ちは娘たちだって一緒に違いない。
亡骸になってから身につける最愛の娘たちからのプレゼント…
ダンナの亡骸にまだ魂が残っていたとしたら、
娘たちのプレゼントを身につけてダンナはきっと号泣するだろう…
そして…
『どうして俺は家族にもっと優しく出来なかったんだ!!』
そんなふうにダンナも後悔するのだろうか…
娘たちそれぞれの想いが詰まったプレゼントに、
私は感傷に浸りながらも家路へと足早に急いだ。
明日の小林さんとの最終打ち合わせまでに準備しなくてはいけないものがまだまだある。
式の間に流す音楽に斎場に飾るダンナの私物…
でも、これはもう決まっていた。
アニメのワンピースの曲にワンピースのフィギュア。
ダンナはアニメのワンピースが大好きだった。
気づかないうちにワンピースのフィギュアがダンナの部屋にあふれていて、
その部屋の様子に私と娘たちはいつも呆れていた。
TSUTAYAでCDを借りて曲のほうはスタンバイOK。
あとはダンナの部屋にあふれているワンピースのフィギュアの中から、
斎場に持ち込むフィギュアを娘たちと厳選するだけだ。
「パパ、このキャラクターが好きだったからこれとこれにしようよ!」
ダンナとあまり口をきいていなかった次女も、
ワンピースの話題だけはダンナと気が合っていたようで、
ダンナの好きなキャラクターのことをよく知っていた。
ふと見ると、
まだビニール袋に入って手のつけられていないフィギュアが何体かあった。
「それ、パパが買ってきたばかりで、
お休みの時に飾ろうって楽しみにしてたよ…」
楽しみにしていたフィギュアを飾りつけることなく逝ってしまったなんて…
私はダンナの趣味にまるで無関心でちゃんと話しを聞いたこともなかった…
ダンナにしてみたら、
このフィギュア一体一体に思い入れがあるんだろう。
「パパを天国に送り出すための最期のセレモニーなんだから、
パパに喜んでもらえるようにしなきゃね!」
人生最期のセレモニーは、
私と娘たちからの最期のプレゼント…
旅立ちの準備を娘たちとすすめながら…
また…涙が止まらなくなってしまった…