ダンナは病室に私を送り届けるとそのまま会社に戻るという。


「お母さんも来てくれるから大丈夫でしょ?
とにかく忙しいから会社に戻る。
産まれたら連絡して!」


そういうとダンナはさっさと会社に戻っていった。

私はもともと長女のときから立ち会い出産希望ではなかったし、
長女のときも私が陣痛で苦しむ姿をダンナはあまり見ていない。

長女のときは破水してすぐに入院。

陣痛がつくまでかなり時間がかかって、
陣痛がつき始めても産まれるのは翌朝になると言われていた。

夜中にダンナは一旦帰宅。

でもその間にどんどん陣痛がつき始め、
予定時間より早く深夜に産まれてしまった。
だから出産の瞬間ダンナは不在…

テレビドラマのように、
お父さんが分娩室の前で今か今かと右往左往しながら出産を待つなんて…
そんな幸せでドラマチックな展開、
私にはやっぱり縁がないんだな…と思ったら諦めがついてきた。


『ダンナなんていなくても大丈夫!!』


幼稚園のお迎え帰りに母と長女が病院を訪れた。

長女の小さな手を握る…


「ママ、がんばるからね!!」


陣痛促進剤の威力は凄い!
息をつく間もなくどんどん陣痛の波がやってきて、
2時間という短時間であっという間に出産が終わってしまった。


「おめでとうございます!元気な女の子ですよ!」


無事に次女を出産…


退院した私は子どもがふたりになり更に育児が忙しくなった。

毎日がバタバタ慌ただしく過ぎていく…


そんなある日…


「もしもし…もしもし?…」


また無言電話がかかってきた。

相変わらず電話に出ると暫く無言が続き、
そのままこちらも無言でいるとプツっと切れる…


『まったく!いったいなんなの?』


文句を言いながら受話器を置くと、
次女の泣き声が無言電話の記憶を秒速で抹消した…

ダンナの帰りは次女が生まれてからも変わらず遅い…

当時の私はどんなにダンナに酷いことを言われてもダンナのことが大好きだった。

次女が出産する日に酷いことを言われて『離婚』も考えたけど、
それは決して本心から離婚したいと思ったわけではない。

出来ることなら些細なことでも話し合い、
ちゃんと向き合い、
夫婦関係を修正しながらダンナとの絆を育んでいきたかった。


それは私の生い立ちも関係してるのかもしれない…


だからダンナのことをいつも信頼し、
感謝の気持ちを忘れたことがなかった。

こうして私が子どもをふたりも授かれたのも、
ちゃんと屋根のある暖かい部屋で眠れるのも、
明日のご飯を心配しなくていいのも、
全てダンナのおかげ…

だからどんなに育児で疲れていても、
どんなにダンナの帰りが遅くても、 
晩ご飯を作って寝ずにダンナの帰りを待っていた…

その日も夜の12時を過ぎてもダンナは帰って来ない…
連絡もない…

テーブルに並べられた晩ご飯のおかずにラップをかけて冷蔵庫にしまおうとしたとき、
やっとダンナが帰ってきた。


玄関まで出迎えるとダンナが靴も脱がずに玄関に佇んでいた。

そしてその姿を見た瞬間…

私は思わず息を呑んだ…





帰宅したダンナは血だらけだった…