群がるパトカー。
消防車に救急車。
真っ赤なサイレンが回って、まるで新体操を見ているようだ。
黄色いテープが張り巡らされている間も、黒煙は延々と立ち上っている。
でも俺は立ち止まらない。

さっき、110番をしたから。


思えばずっと怪しかった。
何軒も回って、やっと残されていた一台を借り、他人にぶつけた。
事故。
接触するのは分かっていたような気もする。
回避する気にもならなかったのかも。
いい迷惑だ、この世の。
相手は優しかった。
初めて事故った俺の、優秀で迅速な対応のおかげで、すぐに笑い話になった。
そりゃあそうだ、相手はただ止まっていただけだもの。
100%、俺が悪いんだもの。
分かりやすくて、いいね。

だからその後、平然と目的を果たした。


本当は夕方までプラプラするつもりだったんだ。
帰ったって何にもないし、独りになっても泣けないし。
そうそう、給料はひでーくらい安いのに、暮らしていけるから金も貯まって。
普通の普通。
思い返しても、馬鹿馬鹿馬鹿。
遠くの海が、ここまでやってくればいいのにな。

あー、ね、こういう時に煙草を吹かせばいいのに、吸うよりはやっぱり吐きたいの、そういうの分かる?
美味いものよりは、うんと不味いもの。
あちこち痒いよ。
爪も伸びるし、肩もこるし。
もう、俺ん家の裏でけたたましいのやめてよ。

ずっと続けてる趣味が悪い意味を持ち始めても、その背中、蹴っ飛ばしたりしないで。
尻だからって叩くな。
触れていいもんじゃないよ、その目線も。
心配そうにしなくていい、競技みたいなものだから。
不安定な天気、不安定な会話。
騒音に励まされるくらい、誰かの声を聞いていたくない。
ラジオ、消した。
電気は消す。
音量は下げる。
エコって塞ぎ込むことでしょ?
指と指で覆われていればいいんでしょ?
優しくない、優しくない。

優しくされないけど、俺は優しいまんまです。