缶コーラの炭酸がパチパチと抜けていく音ばかり聞こえる。
さっきまでずっと泣いてた。
誰もいない広い部屋で、孤独にすがっている。
外に出れば話し声も雑音も手当たり次第俺にぶつかってくる。
それは意外にも心地いい。
馬鹿なことを考えながら歩けるし、ズレた行動をしないように、すれ違う他人が勝手に俺を抑制してくれる。
……はずだった。
夜道はもうだめかもしれない。
たくさんの人が信号待ちをするのに、行き交う車や赤信号に吸い寄せられるみたいに、俺は一歩を踏み出しそうになる。
自分の意思じゃない。
だけど驚くほどに気持ち良く、またゆっくりと、時間をかけて脱皮をするかのように、誘われるんだ。
そこには恐怖も不安もない。
小さい頃母さんに包まれていた、あの安らかな時すら思い出す。
今、俺はいくつもの脳内で平然としているけれど、……魂だろうか。
体を置いてけぼりにして意識が一つ、惹かれて真っ暗になった。
ポケットから手を出して歩き出す。
最近はよくこんな風に、死の妄想がふわふわとやってきては脳にこびりつく。
その妄想が俺の元にやってきたら、音楽すら邪魔な時もある。
病んでいるのか?
いや、病んではいるのだが。
死にたいと思ったことは一度もなく、自殺願望なんて意識したことすらないと思うのに。
案外こんなにあっさり、人は死ぬ気になるのだろうか。
なんにも後悔がない。
俺は今、何も後悔が生まれてこない。
やはり今なのか。
死ぬなら、今だろう。
心に影を落とさず、こんなにまっさらな気持ちで死ににいけるのに、友人も家族にさえも後ろ髪を引かれずに、まっすぐにそこへ行けるのに、思い留まるほど考え込んでもいないのに。
今日も家まで帰ってきてしまった。
弟は、俺がまだ赤が一番好きだと思っているんだろう。
学校に行ったのに授業を受けずに図書館でふけっているだけなのに、お気に入りの服を着て、髪型もガチガチにセットしているバカだよ、お前の兄弟は。
バカだけど、本も読まないけど、やっぱり喧騒から離れたい。
今日は誰とも話したくない気分だった、あいつにもこういう時があったりするのかな。
俺は今日自分を甘やかしてしまったけど、毎日毎日そう思っているね。
……さっきどうにもこうにも許せなくて、悲しくて虚しくて、泣きながら調べたのさ。
昔からずっと、何にも興味がなかったから。
せめて病気であれば、楽に解釈して生きていけると思った。
ああ、病院はまっぴらだぜ。
病気だと分かっても、誰にも教えるつもりはないよ。
喉が痒くなるから、もうあまり考えない。
大好きな歌詞がある。
『ぼくは 明るいノイローゼ』
こんなにぴったりの言葉が浮かぶ、せめてミュージシャンにでもなれたら、言いたいことがあちこちに見えるのだろうか。
俺の個性って、どこかに転がっちまったんだろうか。
何もかも避けてちゃだめなのか、そうだったのか。
だけど、何も知らずにそのままにしてきたあの頃が、俺は一番良かった。
今はダメだ、変に器用で、知らないふりもできなくなってきて、頑なに拒んでいる方が、絶対に審美的だったのに。
匿名を愛しすぎている。
自分を確かめる度に喉が腫れぼったく、息を吸うだけでヒリヒリとせがむ。
何を?
見失いがちで覚束ない足取り、塀に乗り上げて足を挫く。
なあ、どこを見てるんだよ。
みんなは、一体何が見えているんだよ。
色も景色も同じように見えているはずなのに、どうして俺は呆けているんだ、何も全てに相槌を打たなくたっていいのを知っているのに、なぜ俺は遠くへ遠くへ行こうとしているんだって。
ああでも、泣くのは良いな、大好きな海の香り、染み込んでくる塩の味、何一つ返してはくれない、月明かりが一本の道を作ってくれていたっけ。
そう、海と月、クラゲのようだよね、綺麗で気持ちの悪いこんな場所。
なら漂う、流されるのは嫌だ、俺は好きなように好きな孤独の有り様で、傷つけて殺してでも、死ぬまで漂う。
震える神経を必死に整えながら、それでも人を見るよ。