『フェルメール、私の愛情は生きているわ』

 

女の誕生日を考えていたら、そんなセリフが浮かんだ。

1週間後なんだ、ちょうど。

午後はずっとパソコンを開きっぱなしで、中途半端にしていたデータをさっき飛ばしたところ。

ああついてねぇ、ついてないけど、このまま画面を閉じるわけにはいかない。

彼女の、あの女のプレゼントを決めるまでは。

 

誕生日、俺としては穏便に過ごしたい。

というか、済ませたい。

愛がないわけではない、他人のそういう日は心から祝ってやりたいし、アクションを惜しまないよ。

でも、だからって、俺は別に適当でいい。

なんていうか、照れ臭いし、されるよりしたいってやつだとは思うけれど、それだから貧乏が直らねえのかなあ、なんて。……

 

美しい画家だね、うん、フェルメールは。

美しい絵を描いたよ。

でもそれぐらいかな、それぐらいしか、めぼしい人物はいなかったよ。

そう、多分ね、その日はもうあの子が好きにしていいんだと思う。

情熱的な生きた愛情を、寸分の狂いもなく光り輝かせる。

そんな偉人の絵画のような、懐かしいのに手の届かない不安定な感情の中で、踊り明かそう。

もう、直に会えなくなるのなら、それなら仕方ない、俺はまた文字通りの貧乏にならないと。

いつまでも貧しく乏しい気持ちでいないと、幸せなんか感じてたら小さなことにすぐ気付けないんだ。

見落としてるわけじゃない、気付かなかったわけじゃない、ただほんのちょっとだけ、浮かれていただけなんだ、仮にそれを幸福と呼ぶのなら、俺はもう一生、綺麗な花々を踏み潰して歩いた孔雀のようなブサイクにはならねえ、あんな風に何かを虚仮のように扱うグズには、もう二度と、もう二度と、これからはただの一度も……。

 

 

フリーズした。

何もかも。

どうでもいい、どうでもよくなる。

黙れ。

もう黙れよ。

もっと素敵な気持ちで考えなきゃいけないんだ、こういうのは。

祝福。

祝福しないと。

憎い。

憎たらしい、こんなの。

こんなのって。

こんなんじゃ、涙も出ない。

一本の映画を見た後みたいに、心がくたくただ。

嗄れてる、瑞々しさなんて、とてもじゃないけど、俺にはもう無いかも。

履歴ばかり残って、何も決まらないバカを見てるよ。

 

 

……ずっと前に、油彩は諦めたんだ。

絵画は難しすぎてね。

あんなに自由に見えるのに、数学よりももっとシステマチックで窮屈なのさ。

君には、そんな思いをして欲しくは無い。

似合わないから、もっと熱血で情だらけで、いいと思う。

そう言いたい。

言葉でもいいけど、もっと分かりづらく伝えたい。

もしかしたら伝わらないんじゃ無いかってくらい、曖昧にしておきたい。

大切だから、真っ直ぐじゃなくて、すげえ遠回りしなくちゃいけないと思っている。

色々道草を食ってからじゃないと、準備を万全にしてからじゃないと、何も言えずに終わってしまうとさえ感じている。

 

 

埃にまみれて何かを表現しようともがくのを、やめられずにいるんだ。

辛気臭いけれど、静寂には負けない。

たった一つ贈り物を考えるだけで、一喜一憂する自分にも負けない。

彼女が情熱から遠ざかり、悩んで立ち止まってしまっている今を思うから、俺がこんなに悩んでんだ。

フェルメール、生まれた日を後悔したことはあった?

あの子の答えが、あんたの答えなんだ。

俺には知る由もない偉人の才能が、偉人の物の捉え方が、あの一人の女性なんです。

後悔しないためには、彼女が冷めないためには、生きる他はない。

 

『生きてる』俺が、警戒されるくらいに生きて見せてあげるしか。