ずっと無謀な実験を繰り返しているのだと思う。

 

宅配の荷物を待っているような時も、些細なことでふとのめり込んでいる。

何に?

何についてこんなに一生懸命になっているのだろう、僕は。

瞬きも呼吸も忘れて、没頭しているそれはなんだろう。

やっと顔を上げて我にかえると、決まってインターホンがなる。

 

 

またこんなものに、お金を使って。

随分と梱包されているから、引っぺがすのが面倒だ。

どうしてこんなに綺麗に包む必要がある?

僕が注文したんだぞ、僕が頼んだんだぞ、そんなの雑でいいんだよ。

茶色いガムテープ、透明なセロハン、ダンボールの綺麗な角、あり得ない、全部嫌だ。

淘汰してしまおう、やっと手に入れた平穏な日常に。……

 

 

大層具合が悪いようで、君が休んだ。

それを聞いて僕まで、この具合が悪くなればよかったのに。

君という誰かが欠けた職場で、何食わぬ顔で働いてしまっている男が、透明なデスクに反射しているよ。

……顔色が悪いな。

僕はこんなに色白だっただろうか。

夏の終わり、日焼け止めを塗っていないのに僕の肌は焼けもしなかった、あんなに思い出を作りに行ったのに。

 

 

お盆が終わっても、別に絶望なんてしないのに。

自分の家に帰って一人になっても、また作業を繰り返すだけだ。

小さい頃からの呪い。

僕との約束。

いつまでも手を動かしている、必死に。

どうして?

どうしても。

こうやってフツウの職について飯を食っている僕への、償いのつもり。

ものづくりはやめられない、やめてはいけないから、せめて。

いっそのこと諦めてしまえば楽なんだけど、それはやはり死を意味する。

この記録も疎らな無謀な実験をやめてしまった時、僕の死は確定する。

だから、呪い。

続けても苦しい、辞めても苦しい。

しかし僕はのめり込んでしまっている。

かれこれずっと、生まれてからずっと……。

 

 

君はまたケロリと元気になった。

女だからいちいち体調を崩すのは仕方がない、男には一生分からない苦労だろう、僕も到底よく知れない。

気にかけてはいる。

恋愛対象でなくても、そういう子は一人や二人いるだろう。

君がまた元気に過ごしているならそれでいい、僕もやらなくちゃならないことを思い出す。

些細なことなんだ、日向にいる時みたいな気持ちになれるのは。

 

宅配の荷物を待ってばかりで、部屋の掃除も随分していなかった。

作業に没頭した残りカスが散らばっている。

……そういえば、僕はちゃんと挨拶をしていただろうか。

僕も知らん顔でケロリと挨拶してみても、宅配のおっさんに引かれないだろうか。

今更そんな人らしいことを意識しても遅いか、まあそうは思うが、今ふと思ったから僕の気まぐれだ、明日にでも実践してみる価値はある。

いちいちそんな風に、仮説を立てないと、僕の場合は。

僕は一生懸命だから。

一生懸命に取り組まないと、何もできねえんだ。

素っ頓狂になるのだって大真面目にやる僕だ。

 

 

 

だからずっと今までのように繰り返す。

今年の夏はもう終わるけど、次の夏こそ絶対に小麦色に焼けてやる。

 

どんな目標でもいいじゃねえか、自分が前向きになれるなら。

インターホンが鳴る前に、寝癖だって直しておくよ。