俺の見ている天井。

その右から左を、奇妙な音が行き来している。

 

どうしようもなく、淋しい。

 

 

扇風機はずっと首を傾げている。

俺に背を向けたまま、残暑に参っている。

この夏でくたばるのか、俺も。……

 

 

人に会えないまま連絡を取り合っている。

気がつくと水をありったけ飲んでいて、うっかり眠りについた時には、俺は林の中にいるんだ。

美しい木漏れ日に目を細めると、宝石の山のような光の粒を瞳に閉じ込めることができた。

その何にも代え難い美しさは、全てあの山の雪解け水が育んでいるのだと思う。

湧き水。

少しだけ触れたことがあった。

あまりにも透き通っていて、凛とした冷たい感触。

この水のような人だった。

あなたは。

 

誰に促されたわけでもなく、初めからその場所でただ美しく、立っているだけのような人だった。

好意。

好きだと思った。

話したいとか、触れたいとか、そういうことではなくて、……行為じゃなく、好意。

笑顔を失うほど、息を呑んででも、ずっと見ていたかった。

それは恋じゃないと、何度言われたっけ。

それなら他に何て言えやいい?

そんなことをずっと考えていたら、時なんかあっという間に過ぎてしまったよ。

 

 

線香の匂い。

まさか、俺じゃあ無い。

なんならそこの扇風機さ。

しかし、何年も何年も棒に振っていたような……。

その間ずっと同じ夢を見ていたのに、今思えばどこにそんな暇があったのか、全く呆れる。

名前の付けられない俺の好意を、あなたは見つめる?

この鮮やかな朝に一杯の水を飲んで、俺は見つめる。

人の気配を。

 

 

林の中を進む時に感じる獣たちの視線。

木々のざわめき。

命と色の気配。

それら全てが、人の形を思わせているのか、夏も終わりなのに。

夢の続きは夢で見ず、日の光を浴びたら知れればいいのに。

 

 

林に水。

俺はもうずっと、林に水だ。

この涙も寂しさに溶かしてくれてやる。

……どうか、あなたに。