ユリちゃんは私を頭がおかしいと言った。


全部嘘って、妊娠しているのも嘘なんだね?

はぁ…??えっ??
妊娠っっ?
娘ですか??
ユリが?

はい、妊娠したと言いました。
だから話し合いに来たんですが、ぜん…

もーいいってば!
帰って!
帰れよ!!

ちょっとアナタは黙ってなさい!
妊娠って何ですか??


ユリちゃんの母親は怪訝な顔をして私に聞いてきた。

ユリちゃんが帰って!とか本当にやめて!と言っていたが母親がその度に黙っててと言っていた。
犬もうるさい。


結論から申し上げれば、うちの旦那と娘さんが浮気をしまして、娘さんが妊娠をしたそうです。
娘さんは産みたいと言っているのですが、こちらとしては話し合いにも応じなければ妊娠の証拠もないので納得していません。


母親は状況がよく理解できていないようで、驚いた表情で口を押さえて黙っていた。

旦那はなにも喋らず、少し離れた場所で突っ立っていた。

こちらは話し合いがしたくて休みを取って来ています。
全く喋ろうとしないので話が進みません。
とにかく話がしたいのですが。
ここでもいいですが、うるさいので公園に行きますか?


イライラしていた私は少し荒い口調だったかもしれない。
母親は家の中で聞きます…と言って入れてくれた。

キッチンとリビングが一緒になった場所で、母親はテーブルの上の箸入れやら雑誌を別の場所に移動させて、どうぞといった。

私と旦那は軽く頭を下げて椅子に座った。

私のとなりに旦那が座り、私の前に母親が座り、旦那の前にはユリちゃんが座った。

しばらく沈黙が続いていたので私から話した。


さっきも申し上げましたが、旦那と娘さんが浮気をしました。
旦那がもう会うのを止めたいと伝えたら自殺未遂のような写真を何枚も送ってきたり妊娠をしたと言っていまして。
話し合いをしたいのですが何を聞いても無言なので困っています。
妊娠についてはご存じですか?


いえ…
今初めてで、自殺未遂って…


ユリちゃんの母親は口を押さえたまま下を向いたままだったが、震えだしたかと思ったら泣きだした。


あんた、何でそんなことしたの!
何をしたの………


母親は泣きながらユリちゃんに聞いていたが、ユリちゃんは黙ったまま一言も言わなかった。


ユリ!
あんた自殺未遂って何したの!


母親がキツイ口調で言っても彼女はただ一点を見つめたまま無言だった。


ユリちゃん。
腕とか切ったの、あれ本当なの?


旦那が聞くと、ユリちゃんは小さな声で


切ってない。


そう言った。

あぁやっぱりね、嘘か。

そう思っていたら母親が旦那の方を見た。


あなた、結婚してるんでしょ?
お子さんもいらっしゃるんでしょ?
ちょっと…軽率じゃないんですか?


母親は涙を滲ませながら旦那を睨みながら言った。
旦那はテーブルに付くくらいに頭を下げていた。


本当に申し訳ないと思っています。
僕がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかったので…
本当にすみませんでした。
本当に申し訳ないです。


旦那は謝った。
母親はずっと旦那を睨んでいた。


それについては本当に軽率だと思っています。
ですが、ユリさんはこうなる前から旦那が結婚していることも子供がいることも知っています。
それを知った上で旦那に声をかけたのも娘さんです。
それに関しては旦那だけでなくユリさんにも責任はあると思っています。
私の存在を知らなかったわけではないので。


母親は涙を拭きながら唇を震わせていた。


妊娠してるのは本当なの?

………

答えなさい!

………


ユリ!どうなの!


母親が絞り出すように聞いても彼女は黙ったままだった。

なぜこの人は無言なのか?

イライラしてまたぶん殴りたくなった。


ユリちゃん。
ちゃんと話し合いするって言ったよね?
黙ってないでちゃんと話してくれないかな。


旦那が聞くとユリちゃんは


してる。


と、小さな声で呟いた。

母親は泣きながら何も喋らなかった。

私は無言で彼女をじっと見つめていた。

冷めた視線を反らさずに、ずっと睨み続けた。

彼女は私に気づいてこっちを見たがすぐに視線を反らした。


本当にしているんですね?

…………

証拠は?

…………

今は何週ですか?妊娠何ヵ月ですか?

…………

病院でエコーの写真は貰いましたか?


彼女は何を言っても無言で、まるでバカにしたように髪留めを外して髪を触ったり自分の爪を眺めたりしていた。