映画「スキャナー 記憶のカケラをよむ男」感想 | フリーライター佐々木月子のブログ

映画「スキャナー 記憶のカケラをよむ男」感想


映画「スキャナー 記憶のカケラをよむ男」を観てきました。

3回泣きました。
一緒にいった友人たちから「どこで泣いたの!?」と笑われましたが、
私、ニュース番組を見ても泣いてしまうほど涙腺弱いので。。

中でも一番グッときたのは、雪絵(木村文乃)がマイティーズを信じていた理由。
あれが伏線だったとは……!
古沢良太さんの脚本はさすがです!!
クライマックスあたりから、あれもこれも伏線だったと気付かされ、驚きの連続!

私も友人もみんなが「いい!」と大絶賛したのが、
仙石(野村萬斎)の爪を雪絵がやすりで削るシーン。
あんなラブシーンがあるなんて! 新しい! そしてエロティックで切ない!

日本史上に残る脚本家、向田邦子さんが書いたといわれる有名なラブシーンを思い出しました。
男女が、ガラスの向こうとこっち側で向かい合い、口に入れた飴玉を右へ、左へと動かします。
男と女の頬が同時に、右、左と交互に飴玉で膨らむ。
言葉もなしに飴玉を同じ方向に動かす、ただそれだけで、2人の心が通じ合っていることを表現したのです。

私はこのシーンを見ていないのですが、何かの本で読んだ記憶があります。
記憶違いだったらすみません。

脚本の基本のひとつに、登場人物に「愛している」と言わせずに「愛」を伝えること、というものがあります。
愛に限らず、気持ちを言葉で表現せずに、行動やシチュエーション、小道具などで表現するのです。
これってけっこう難しいんですよ。
キスしたり、抱きしめたり、そういうありきたりな愛の表現は、言葉で示したのとたいしてかわりありません。
飴玉や爪やすりで表現するなんて……すごい!

この映画の中で、仙石は一度も幸恵への思いを口にしません。
でも、深く愛してしまったことがちゃんと伝わってきます。
だからこそ、ラストの仙石の一言が切ない。そして美しい。

あの一言は、野村萬斎さんだからこその深みと痛みがありました。
仙石役は、
萬斎さんじゃなきゃダメだったろうな、と思うくらい素晴らしかった。

萬斎さんに限らず、役者陣の演技と存在感はすごかったです。
芝居のできる役者さんたちといい脚本が揃い、映画として満足度の高い作品でした。