「アルゴ」みました。

2012年のアメリカ映画です。アカデミー賞作品賞を受賞しています。

監督は主演も努めているベン・アフレック(「ゴーン・ベイビー・ゴーン」監督、「タウン」監督・主演)。制作にベン・アフレックとジョージ・クルーニーも参加。
出演は他にブライアン・クランストン、アラン・アーキン、ジョン・グッドマン、ヴィクター・ガーバー、カイル・チャンドラーなど。名バイプレイヤーが数多く出演しています。


1979年にイランで起こったアメリカ大使館人質事件を描いています。大半の職員は人質になってしまうのですが、6人が脱出して隠れており、それをイランから出国させるためのプロジェクトにまつわるストーリー。

そのプロジェクトというのが、6人をイランにロケハンにきている映画スタッフに仕立てあげ、イランの革命軍兵士によって厳重に見張られている空港から堂々と出国させようと言うもの。

「アルゴ」というのはそのための嘘映画のタイトルで、嘘ではありながら、イラン側をだますために様々な現実の映画製作作業を行っていくのが見所です。


以下、内容説明含む感想です。



舞台が1979年という、SF映画隆明期というのが熱いですね。猿の惑星の映像や、スターウォーズのポスター、フィギュアなどが登場、当時のB級A級、Z級の入り交じった、これで稼いでやるぜというハリウッドの雰囲気が楽しいです。

実際に猿の惑星のメイキャップアーティストのジョン・チェンバースが相談役でアルゴ作戦を支えているというのが、事実ながら映画みたいです。もう一人、大物プロデューサーとしてレスター・シーゲルという人が出てきますが、この人は実在かはわかりません。でも映画「プロデューサー」でも描いてたような、腐るほどのシナリオから宝を見つけ出そうとしたり、シナリオがまるで何かの製品のように売り買いされ、手を入れられ、埋もれていく感じや、糞みたいなものでも高く売りつけてやろうとする香具師根性が短い尺ですがいいですね。



脱出させるためにどうしようか、先生ということにしようか、地質調査員にしようか、いや、映画だ!という流れが面白いし、その後嘘映画を本物に見せるため、イランを舞台にできるシナリオをみつけ、ポスターを作り、スタジオをかりて。

いや、まだダメだ、って言うんでストーリーボード発注、人を集めて衣装を着せた俳優による本読み兼マスコミレセプション。実際に雑誌に記事をのせさせるあたりの、人助けとはいえ大掛かりな嘘をついていく詐欺師感が、ハリウッドの海千山千の雰囲気とマッチしててすごくいいです。

その後はイランに渡っていかに逃げおおせるかのサスペンス。まあ、この辺は結構映画用に盛ってる感はあって、ハラハラはしますがなるほどという感じ。


すごくよかったのは、空港で止められそうになったとき、ペルシャ語ができるスタッフの一人が、映画の内容を兵士たちに語りだすシーン。

ストーリーボードを見せながら、スターウォーズのようなおとぎ話、それも、イランの兵士たちが今置かれている、国民が立ち上がって腐敗した国王を倒すという物語を、ビームやジェットの効果音を混ぜながら語っていく。その、映画を作ろうとしているスタッフを演じる演技ではあり、語られているのは嘘映画でありながら、彼が語っているその瞬間だけは、「アルゴ」が本当に存在している感じが、物語の本質をついていていいなとおもいました。嘘こそが本当というか。

そしてそれを聞いた兵士達の嬉しそうな顔もよかったです。


まあ、一番はこれが実話だっていうことで、実際にこの作戦を行ったCIAの職員は表彰されながら、これを公表できないため取り上げられ、1997年に秘密保持の解除を大統領が行ってからまたもらったらしいです。それまでは名前も出ず、カナダの作戦ということになっていました。
この辺のほんとに諜報作戦て隠されてるんだっていうのが興味深いですね。

エンディングでも、実際の当時の写真と映画の場面を比べるような映像がながれて、感慨深くなります。
クレーンで首つり死体をさらしたり、ブルゲをかぶった女性がマシンガンを持っていたり、当時のイランの情勢が思われます。
ただ、腐敗した傀儡国王をイランに据えたのがイギリスだったりとか、国としてものすごくプライドを傷つけられていたんだろうなと思います。

その辺の、映画で初めて知るけど、映画が描く限界みたいなのは、事実をもとにした作品では考えさせせられますね。


ネットで調べていたら、このアメリカ大使館人質事件を、イラン側から描く映画の制作発表がなされたそうで、機会があったらみてみたいです。


ハリウッドを題材にしてるし、カナダとアメリカの国際協力を描いているし、隠された事実でわくわくするし、まあ内容的にアカデミー賞好みかなとおもいます。
特にこのあたりの年は『映画についての映画』に対する評価が高かったですよね、「ジ・アーティスト」とか、「ヒューゴの不思議な発明」とか。


本当はもっと色々足して、スパイコメディ映画にしてみてみたいストーリーです。重さはなくしちゃっていいので、嘘映画で相手の国をだますって言う単純な設定で観てみたいですね。ローワン・アトキンソンのジョニー・イングリッシュとかで。



適度にシリアスだし、適度にエンタメなので、なんかいい映画みたいな、というときにおすすめです。