「妖奇切断譜」貫井徳朗 / ほどほど、ほどほど。
と、いうわけで 第2弾である。
もう少し付き合ってみようと思わせたのは、著者の安定した筆力のおかげ。
ヘタな小説をとつおいつ消化するより、やっぱり読みやすさに流れてしまうモンなのです。
本読みの端くれとしては、楽ばかりしててはイカンのですけどねえ。
さて。
ご一新以降の世の流れに違和感を抱き、いくばくかの反感をこめて遊び人を続ける青年公家がワトソン役を演じ、その友でどこか凄愴な色を帯びた元大名の子息が安楽椅子探偵の役回りを担うという、いささか貫井徳郎らしからぬ本シリーズだが、ずいぶんこなれてきたように思う。
というより、あまり無理をしていないという印象に近い。
明治という舞台設定が包摂するキャパのわりに歴史背景をあまり掘り下げなかった前作の轍を踏まず、いくらか目線を下げて庶民的あるいは通俗的なところからミステリ的な脚色を引き出してきたのが奏功したといえるだろう。
文化論じみた素材をやや生硬なまま使用してしまった前回に較べ、より自らの筆になじみやすい仕立てで臨んだ結果、物語の本筋がブレなかったというところか。
舞台性のシバリがごくごく普通の時代小説程度までに後退し、かつ無用な薀蓄がさっぱりと消えうせていたので、さらに読みやすさは向上した。
僕のような中途半端にうるさ型の読み手にとって、これは好材料である。
あとがきにて漫画家の喜国雅彦が暑苦しいまでに本書の猟奇性を称揚しているとおり、たしかに血なまぐさい描写は前作を凌いであまりある。
なにしろ、今回は連続バラバラ殺人事件なのだ。さらにはバラバラ死体を持ち去ってあれやこれや淫してしまう変質者も登場するとあっては、その気のある(?)喜国雅彦が狂喜乱舞するのも、またむべなるかな。
世に知られた絶世の美女たちが次々と無惨な屍と化していくさまに耽美したい方はほどほどの期待感を持って、そうでない方もほどほどのミステリ的充足を期待して、本書を手にとってみてはいかがだろうか。
最後の最後でおそろしい期待はずれが待ち構えているが、それはそれとして読み通せる作品ではある。
オススメ度★★★
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