幼い頃街を走っていた路面電車は
ゴーッと大きな音をたて
左右に揺れ車体を軋ませながら走っていた
町へ行く時はバスではなく電車に乗った
いつも運転席の後ろにしがみつくように立って、運転の様子を見つめていた。大きなギアハンドルを加速の度にグルッと回すのが不思議だった
当時の車体は、躯体以外、床も天井も窓枠も木製だった。
床は腐食止の油が塗られ、独特の匂いと、黒々とした光沢があった。
座席はみどり色のモケット地で、いつも撫でて感触を楽しんでいた。
座席では膝立ちで外の景色を見るのが好きだった。夏は窓が開けられていたから、強い風が顔に当たるのも気持ち良かった。

「それからは
スープのことばかり
考えて暮らした」
吉田篤弘
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主人公オーリィ君こと大里君は月船町の教会の見えるアパートに住む。大家さんが大屋さんで素敵なご婦人。
オーリィ君は失業して求職中なのに、月船シネマで映画ばかり見ている。松原あおいのファンで同じ映画を5年間で25回も見ている...

商店街のはずれにサンドイッチ屋さんがあって、そこのサンドイッチがとびきりおいしい。ご主人は遠藤さん、その息子が律くん。

路面電車で一駅の月船シネマでみかける緑の帽子の婦人。キィパーソンだ。

そして
サンドイッチやスープの話
どれも懐かしい味だ

読みながら、自分の記憶が呼び出されてきて、まるで自分が
そのアパートに
映画館に
商店街に
いるような錯角に陥るのだ

学生の頃住んだアパートは、もともと下宿屋だった二階建ての一軒屋で、二階の二部屋の、北西の角部屋を借りていたσ(^_^;)。京都の夏は死ぬほど暑く、窓からは青い空から熱風が入ってきた。


初めてサンドイッチなるものを食べたのは小学3年生くらいだったと思う
それは母の味ではなく、姉であり、中学の調理実習で作ったものだった。
スープといえば、やはりそれは、母の味噌汁だ。田舎味噌は辛かったが、大きな煮干の出汁の効いた豆腐の味噌汁だ。母は豆腐を手の平の上で、ささっと賽の目に切っていた。姉はいつも俎板の上で切っていたし、私も、高校生になるまではやってみようとしなかった。いまは、豆腐を手の平にのせると、母の手元が浮かんでくる。習ったものは習ったイメージのまま、身体と記憶に残っているのだね。

サンドイッチ屋の息子、律くんは大人になったあとに、サンドイッチやスープを食べるたびに、お父さんのサンドイッチとオーリィ君のスープの味を思い出すのだ、幸せだね(*^_^*)
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