1/19〜20(日本時間)海外中量級試合スケジュール ほかセルゲイ・コワリョフ リングの悲劇 | @TUG_man石田順裕応援ブログ

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1/19土曜日

【英国タイトル戦ウエルター級】
フランキー・ギャビンvsジェイソン・ウェルボーン

【フランスタイトル戦Lヘビー級】
ハキム・チョーイvsパフェ・ティンダニー

1/20日曜日
【WBAタイトル戦ミドル級】
ゲンナジー・ゴロブキンvsガブリエル・ロサド


【Lヘビー級10回戦】
セルゲイ・コワリョフvsガブリエル・カンピーリョ

【WBCラテンタイトル戦Lヘビー級】
ロベルト・ボロンティvsホルヘ・シルバ


【Sウエルター級6回戦】
ミカエル・ゼウスキーvsブランドン・ホスキンス

【Sミドル級8回戦】
ビアディン・ブロッセvsマーカス・アップショウ

【Sミドル級10回戦】
マット・バンダvsカレブトル・アックス

【Sミドル級10回戦】
アルバート・オノルノーズvsヘスス・ゴンザレス

【Sウエルター級8回戦】
グレン・タピアvsアイ・ブルース

【Lヘビー級8回戦】
シェーン・モナハンvsロジャー・カントレル

【ミドル級10回戦】
カーティス・スティーブンスvsエルビン・アヤラ

【Sミドル級6回戦】
デリック・ウェブスターvsダーネル・ブーン




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~セルゲイ・コワリョフ リングの悲劇~Lヘビー級


ハンサムボーイカンピーリョ(21勝8KO4敗1分)約1年ぶりにリングへ登場だ。相性の悪いカロミュラ、そしてクラウドとあと一歩と言うところで勝ちを逃してしまった。WBA王座転落から3年、現在IBF3位につけている。

正確なジャブで相手を突き放し、中に入っては多彩なコンビネーションを振るう。打って良し離れて良し。試合巧者ぶりには定評がある。34歳ベテランは王座奪還に向け闘志を燃やす。



対戦相手はIBF同級15位コワリョフ(19勝17KO1分)ロシアのハードヒッターだ。コワリョフはそのあまりの強打ゆえ悲しい過去があった。

コワリョフは今もその暗闇の中にいる。それはあまりに辛い出来事だった。

ロシアはその昔、旧ソビエト時代はアマ王国として栄えていた。もちろん今も強豪国であることには変わりはないが閉ざされた社会であったためプロへ人材が流れない、という点で大きく異なった。しかし1991年ソ連崩壊後、労働者の自由化に伴いボクシングでも積極的なプロ化が勧められた。

そして今やボクシングはロシア国内の一大ビジネスにまで発展した。クリチコ兄弟の成功もあってロシアンドリームと言えばボクシングなのだ。

元々力を入れていたアマチュアボクシングをベースに、プロでも稼げるようになったことでロシア国内のボクシングシーンは一気に過熱した。次のスター候補は誰だ。100勝200勝は当り前。アマで実績を残した修羅たちが続々とプロ入りを果たしたのである。



2011年12月5日。そんな中、好成績を誇るホープ対決が行われた。セルゲイ・コワリョフvsローマン・シマコフ(19勝9KO1敗1分)の一戦だ。世界へ名乗りを挙げるのはこのうち勝者1人。ロシア国内注目の両者にこの時期としては高額のファイトマネーが約束された。

数ある団体の中のWBC地域タイトル。世界の中のロシアの中のとある興行のとあるホープ対決。世界的にはまだ無名同士のサバイバルマッチ。

そんなあり溢れたリングの一つ。世界の片隅で真剣勝負が始まった。



試合は開始からコワリョフペースだった。的確にヒットを重ね2Rには早くもラッシュを見せる。しかしシマコフは粘った。3R右ロングフックをテンプルに食らい一瞬動きが止まった。4Rワンツーがアゴを跳ね上げそのままロープ際まで吹っ飛び、5R逆転を狙い前進し続けメッタ打ちに遭った。

シマコフはノックアウトパンチを食っても食っても決して倒れなかった。これに勝てば世界が見えて来る。ガードを堅め前進し必死に打ち返した。


限界を超えて…


6R2:23。コワリョフの左フックカウンターがシマコフの右アゴ先を打ち抜いた。右バン!左左左バババン!!!激しく狂おしい打撃音が鳴り響いた。シマコフはロープにもたれ反動で跳ね返るとコワリョフに抱きつくようにして膝をついた。この時コワリョフあまりに打ち込みすぎて左拳を壊してしまっていたほどの凄まじいラッシュだった。



シマコフダウン。


よろめきながらもシマコフは立ち上がりファイティングポーズを取った。効いている。これで勝負あったか。再開後ダメージの抜けないシマコフは一方的にパンチを貰い続けた。

レフリーがストップを。陣営がタオルを。

思えばこの時に危険を察知して試合を止めていれば良かった。本人が棄権を申し出るわけがない。ボクサーは“死んでも構いません”という念書にサインをしてまでリングに上がる。どんな窮地でも絶対に根を上げる事はない。

シマコフのみなぎる闘志が周囲の判断を鈍らせてしまったのだ。気力が充実し、とても死に至るほどの致命傷を負って戦っていると誰も分からなかった。もし仮に分かったとしてタオルを投げ入れる事ができただろうか。シマコフの鬼の形相を見ればそれでも〝やらせたい〟そう思ったかも知れない。

そうして運命の第7ラウンドを迎えた。

コワリョフがロープに詰めラッシュをかけるとパンチはシマコフの頭上をかすめ通過して行った。不自然なダウン。立てない。レフリーが試合を止めた。一度は立ち上がろうとするが自力ではできない。セコンド陣に抱えられ意識を失うと担荷で引きづられるようにしてリングを後にした。



脳挫傷による意識不明の重体。3日3晩生死をさまよい戦ったがそのまま意識が戻ることは無かった。ローマン・シマコフまだ27歳という若さでこの世を去った。

リング渦。

セルゲイ・コワリョフ
「第6ラウンドの攻勢が決まった時、私はこれ以上彼は戦いを続けられないだろうと思った。しかし彼は戦いを望んだ。シマコフがこんな事になるなんて…ロッカールームを訪ねた時にはすでに病院へ直行していた。彼は真のファイターだった。今の私には冥福を祈る事しか出来ない…」

この後コワリョフはシマコフの両親と話をしようと出向いたが会ってはくれなかったと言う。最愛の息子を失った両親の悲しみは深い。そして正々堂々の勝負、試合での事故とは言え自らの拳で人を殺めてしまったコワリョフの苦悩は計り知れない。

それは恐ろしい悲劇だった。

ボクサーは命を懸けて戦う。石田順裕のエピソードでも試合前は遺書を書いてリングに上がるとあった。決死の覚悟。ボクサーは試合の度にリアルに生死を問われる。命を落としかねない危険なスポーツ。職業。戦い。それがボクシングだ。危険特別手当は死んだ時のみ支払われる。

コワリョフはグローブを置くか悩んだ末リングに上がり続ける事を選んだ。そして次戦のファイトマネーの全額をシマコフ家に捧げた。

シマコフの分まで戦う、と言ったらおこがましいのだろうか。自分がチャンピオンになる事でベルトを捧げたい、と思ってはエゴなのだろうか。シマコフの決して折れない戦士の心がコワリョフを突き動かす。

「リングで戦う勇敢なファイター達の安全を、そしてシマコフの冥福を心よりお祈りします。ああ。シマコフよ…許して下さい…」

元世界王者カンピーリョは巧く強い。下馬評ではカンピーリョ優位だ。しかし勝利への執念がドラマを呼び起こすかも知れない。コワリョフこれに勝てば一気に世界タイトル戦が見えて来る。

コワリョフ戦いの鎮魂歌。

果たして戦友シマコフの魂を世界の檜舞台へと連れて行けるだろうか。



2011.12.5 Sergey Kovalev vs Roman Simakov