そして、いつもこう言うのだ
このナイフ、きみのものだろう?むかしはよく使ってたじゃないか
その新しいのを使わずに、これを気兼ねなく使うといい
僕はもう持たないんだ
それに元々は僕のものじゃない 返すよ
そう告げると いっそう彼は激しく怒り そのナイフを突き出した
よくもそんなことが言えるな!後生だ・・・
せっかく僕がプレゼントしたのに どうして捨てるんだい?
僕のことが嫌いにでもなったのか
確かにこれは元々は僕の持ち物だったが
今となってみれば、いやはやきみの手によく馴染んでるじゃないか
きみの手垢が黒ずむほどに染み付いている
そう彼は何度も何度も たゆまず僕に話しかける
わかったよ そういう態度なら僕にも考えがある
きみの家族に渡しておくよ
きっときみのご両親なら このナイフの大切さがわかっている
きみはまだ子どもだから わからないんだ
この世がどんなに辛いところで どんなに苦しいところなのか
・・・このナイフはきみを守るためには必要なものなんだ!
なぜナイフが必要なのか、きみはわかっているのかい?
こんなに信用できない人がたくさんいるのに
いったい誰がきみを守ってくれるっていうんだい
一向に耳を貸さない僕に対して彼はまるで愛情に溢れる母親のように語る
僕はきみのためを思って、こんなにもきみを説得しようとしている
だからお願いだ 捨てるなんてしないでくれ
もしきみがこのナイフを肌身離さず 持っていてくれたなら
僕はいつでもきみのそばにいる
きみがどんな辛く、苦しいときにでも僕はきみのそばに駆け寄って
きみを助けよう
その苦痛から、解き放ってみせる
それは僕にしかできないことだから
僕はたまらず こう答えてしまった
もういい加減にしてくれ!
きみの愛情というのは もう十分に知っているから お願いだ
頼むから・・・
すると彼はうれしそうに言う
ほら やっぱりきみの手に馴染んでるじゃないか
だが少々 使い方を忘れてしまっているようだから
自分の手足を傷つけないように気をつけることだ
気が向けば いつだって使うといい
それに僕はいつでもきみのそばにいるから
怖くない 不安になることもないだろう 大丈夫だ
彼は満足そうな顔で 笑っている
僕はそれでも何も言うまいと 口を閉じた