「103万円の壁」引き上げで税収減7〜8兆円?

 

実は“問題ない”かもしれない理由と、政府が語らない本当の話

政府が「103万円の壁」を178万円に引き上げる案を検討しているなか、この政策によって7〜8兆円もの税収が減るという試算が話題になっています。
確かに巨額です。しかし私はこの「税収減」は、単なる“失われるお金”ではなく、経済全体を動かす投資と捉えるべきだと考えています。

本記事では、そうした視点から「減税がもたらすプラスの効果」、そして政府がなぜそれを積極的に語らないのかについて掘り下げてみたいと思います。


減税で何が起こる?2つのシナリオ

可処分所得(自由に使えるお金)が増えることで、そのお金は主に2つの方向へと流れます。どちらに転んでも、経済にとって決してマイナスとは言い切れないのです。

1. 消費に回る → 景気が良くなり、税収も戻る

可処分所得が増えた人たちがそのお金を使えば、企業の売上が伸び、経済が活性化します。
スーパーでの買い物が増えれば消費税収が、企業の利益が増えれば法人税収が、そして雇用や賃金が伸びれば所得税収も増える。

いわゆる乗数効果によって、減った税収以上の経済効果が期待できる可能性があるのです。

2. 貯蓄に回る → 国債の安定財源になる

一方で、お金が使われずに貯蓄に回った場合も、日本ではそれが国債の買い支えにつながる構造になっています。
私たちが銀行に預けたお金は、金融機関を通じて国債の購入に使われ、結果として財政の安定性を下支えします。

日本の国債の約9割は国内保有。しかも、国民の金融資産は1,400兆円超とも言われており、貯蓄が国債の“担保”の役割を果たしているとも言えるのです。


では本当に「問題ない」のか?

では、減税による税収減は本当に問題がないのでしょうか?

答えは「短期的には注意が必要、だが長期的には悲観しすぎる必要はない」です。

🔸 タイムラグがある

税収減は即時的に発生しますが、消費拡大や預金→国債という流れは時間がかかるものです。
また、全額が国内で使われるとは限らず、一部は海外投資や資産形成に流れる可能性もあります。

🔸 財政の“慎重モード”もある

政府は、減税により一時的に増える財政赤字を警戒します。赤字が拡大すれば、国債発行の増加、将来的な金利上昇リスクも懸念されます。

日本のように貯蓄が潤沢な国でも、少子高齢化によって貯蓄率が低下すれば、今の仕組みが揺らぐリスクもゼロではありません。

🔸 楽観論を避けたい政府の姿勢

消費が増えれば税収も増える――これは経済モデルではそうなるのですが、現実には人々の心理や行動に左右されるため、政府としては**「確実性のある数字」**を前提に語りがちです。

そのため、ポジティブな乗数効果などは控えめに扱われ、「減税=リスク」として保守的に説明されることが多いのです。


見落とされがちな視点:日本の強みとは?

それでも、日本には財政的に有利な土台があります。

  • 国債はほぼ円建て&国内保有

  • 日銀が大量に国債を保有している

  • 国民の貯蓄が豊富で金融資産が1,400兆円超

こうした構造があるからこそ、減税によって可処分所得が増えても、それが消費に回っても貯蓄に回っても、経済にプラスの波及効果が生まれるのです。


実は「人への投資」でもある

加えて、「103万円の壁」の引き上げは、働きたいのに働けない状況を改善する政策でもあります。特にパートや主婦層の就労意欲を後押しし、人的資本の活用という観点でも重要です。

これは単なる“減税”ではなく、未来の労働力を生かすための社会投資でもあるのです。


まとめ:減税は“消えるお金”ではない

7〜8兆円という税収減は確かに大きな数字です。
しかし、それが消費で景気を押し上げるか、貯蓄で国債を支えるかのどちらかに使われる限り、経済全体には十分還元される可能性があります。

短期的な不安はあるものの、日本の金融構造と国民の資産背景を考えれば、「減税は経済を回すための投資」と捉えてもよいのではないでしょうか。

今後の議論が、このポジティブな側面にも光を当ててくれることを願っています。


✍️ あとがき(個人的視点)

税収減を「失われたお金」と考えるのではなく、「未来を動かす投資」として議論すること。
そんな視点が、もっと政策議論の中にあっても良いのではと、私は思っています。