こんにちは、菓子酢ウーロンです。
 先週から始まった『カシスウー論』の連載第2回は新宿のバー『リフレイン』編です。


 紀伊国屋の横の道を入り、靖国通りの一本手前を左に曲がると、「ときには、こんな階段を降りてみるのも悪くないだろう」という薄暗い階段がある。
 階段の先の重厚な扉を開けると、そこがバー『リフレイン』である。
 カウンターやテーブル、イスなど、すべてが落ち着いた色調で統一され、ぐっと落とした照明がそれらを照らしている。

 まあ、何と言うか、教科書通りにかっこいいバーだ。

 バーなんだから、かっこいいのはもちろんいい。
 でも『リフレイン』には、けっこう騒々しいという欠点がある。
 この前なんて、オペラだか歌曲だか何だかよくわからない音楽が、大音量で響き渡っていた。
 “なんとかパバロッティ”みたいな人の歌声も、残念ながらうるさいだけだった。
 もちろん、“なんとかパバロッティ”に罪はない。
 まともに名前も知らない私がとやかく言う問題ではない。

 ただ、人はいつでもテノールの響きを求めてるわけではない。
 私にだって、しんみりと話をしたいときくらいある。
 その日の気分によって服やかばんを選ぶように、話題には、それに即した声のトーンやボリュームがあるのだ。
 

 小さな幸せを語るときは、柔らかなトーンで、ボリューム4くらいがちょうどいい。
 救いようのない悲しみを吐き出すときは、ボリュームを2に絞り、適度な沈黙を織り交ぜなければならない。


 それが会話のひだというものだ。


 ところが、その繊細な会話のひだを、“なんとかパバロッティ”が巨大ブルドーザーばりにザザザ~と馴らしていってしまうのだ。
 実際、相手の話が聞き取れなくて、「そっか、なるほどね」なんて無色透明なあいづちでやり過ごしたことが何度もある。

 じつに残念ではあるが、まあ、そんな残念さも含めて『リフレイン』なのだ。
 ボロクソに言っておいて何だが、その不器用さみたいな感じが私はけっこう嫌いではない。


 バーにしても、カフェにしても、「ここは、静かで落ち着くね」という人がけっこういるが、「静かで落ち着く」という会話が周囲に聞こえてしまうこと自体、それはそれで落ち着かないものだ。

 聞こえてくるのは、薄くかかったクラシック音楽と、バーテンが氷を削るカリカリという音。
 そんな店にいると、「素敵な静寂でございます」という空気に満たされて、溺れたような気分になる。
 
 それよりは、“なんとかパバロッティ”(通称、ブルドーザー)にザザザ~とやられるほうが好みにあっている。
 “ブルドッティ”(新しいニックネーム)の歌声も、好意的に受けとれば、なかなかチャーミングな欠点だ。
 

 チャーミングな欠点。
 悪くない響きじゃないか。
 
 
 チャーミングな欠点の前では、長所なんて何の意味も持たない。
 イケメンだとか、背が高いとか、やさしいとか、仕事ができるとか、話がおもしろいとか、地球上のあらゆる長所を集めたって、所詮はクローゼットにしまっておく無駄な洋服みたいなものだ。

 彼氏を自慢するときは、チャーミングな欠点を語るに限る。
 

 「私の彼はすっごくやさしいんだよ」ではなく、
 「私の彼なんて、いっつも鼻毛が出てるんだよ。もう、サイアク」と嬉しそうに語るのだ。


 そのほうが、聞いている方は確実に腹が立つ。
 相手がむかつけばむかつくほど、上級の自慢話だ。
 相手を徹底的に痛めつけるつもりがないなら、最初から自慢話などしないほうがいい。 
 最高にして、最大の武器はチャーミングな欠点なのだ。

 恋人はもちろん、結婚相手を選ぶときにも、チャーミングな欠点は重要なポイントとなる。
 私の友人にも、婚活中の人がいるが、年収だ、職業だ、ルックスだ、トークだ、家族構成だと言わず、チャーミングな欠点にぜひ注目してほしい。

 チャーミングな欠点を持った彼と深夜の『リフレイン』へ行き、カシスウーロンを飲みながら、“ブルドッティ”の過剰なまでの熱唱に耳を傾ける。
 ゆがんではいるが、それはそれで素敵な時間ではないか。

 「それはそれで素敵な時間」というくらいがちょうどいい。
 それが、チャーミングというものだ。



『カシスウー論』の最新号はメルマガで!
↓↓ 登録をお願いします ↓↓
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
菓子巣ウーロンの『カシスウー論』
感想やお問合せは cassis.oolong.2009@gmail.com まで
登録解除のお手続きは http://www.mag2.com/m/0000287963.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━