『カシスウー論』 ~新宿のジャズバー『DUG』編~
こんにちは 菓子酢ウーロンです。
第17回『カシスウー論』は、新宿にあるジャズバー『DUG』(ダグ)編です。
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靖国通り沿い、ちょうど紀伊国屋の裏あたりにジャズバー『DUG』はある。
目立たない看板の脇にガラス戸の入り口があって、その扉を開けると地下へ続く短い階段がある。
店内の壁はレンガ造りになっていて、木製のテーブルやイスはすべてが古びている。
オシャレかどうかという尺度で言えば、あんまりオシャレでない代物もあるが、古びていることに違いはない。
ジャズバーなので、当然店内にはなかなかのボリュームでジャズが流れていて、
昼間のカフェタイムでも照明はグッと抑えられている。
もちろん、夜のバータイムはさらに暗い。
『DUG』とは、まあそんな店だ。
ざっくり言ってしまえば、レトロなムードの「いい感じのジャズバー」というわけだ。
『DUG』は、村上春樹の小説に登場したことでもよく知られている。
たしか、「ノルウェイの森」のなかで、主人公が授業の帰りに立ち寄るという描写があったと思う。
私の知り合いには、授業の帰りにジャズバーに立ち寄るヤツなんて一人もいなかったが、
村上春樹の周りには、きっとそんな人がいたのだろう。
(あるいは村上春樹自身がそんな大学生だったのかもしれない)
いずれにしても、私も「ノルウェイの森」で『DUG』を知ったクチだ。
小説に出てきたジャズバーに実際に行ってみるなんて、いま思えば割とはずかしい行為だが、
当時(20代前半)の私はけっこうカッコイイと思っていた。
若い頃って、多かれ少なかれみんなそんな感じでしょ。
私の場合、もともと酒は飲めないし、ジャズになんてまったく興味はないのだが、
ときどき一人で『DUG』へ行っては、無理やり本を読んでいた。
本を読むには暗すぎるし、音楽はうるさかったけど、そんなことは気にならなかった。
そもそも、快適な空間で本を読みたかったわけではない。
大切なのは『DUG』で読むことだ。
店内が少しくらい暗くたって、弾むようなピアノがガンガン鳴り響いていたとしても、
それが『DUG』なら仕方がない。
そんなふうに思っていたんだと思う。たぶん、きっと・・・
ただ一つの問題は、何を注文するかだった。
昼間に行くときはコーヒーを飲んでいればそれでよかったが、
夜のバータイムではそうもいかない。
バータイムでは「何か、アルコールを頼まなきゃいけない」と勝手に思い込んいたので、
やむを得ず私は「フォアローゼズ」を注文していた。
カッコイイ酒といえば、バーボンに決まっている。(当時の思い込み)
そして、当時の私が知っているバーボンといえば「フォアローゼズ」と「I.W.ハーパー」しかなかった。
何にしたって、どちらかを注文するしか方法はない。
かなりさびしいリストではあるが、バーボンの銘柄を2つ知っていれば、たいていの場面は切り抜けることができた。
最初はフォアローゼズを飲んでおいて、しばらくしたら「次はハーパーにしようかな」なんてほざいておけば、それで事足りた。
ちなみに、「フォアローゼズ」にはブラックラベルという上級版(通称『黒バラ』)があったので、
相当無理をして、「フォアロゼのブラックラベルを、ロックで」なんて具合にオーダーしていた。
いまとなっては、「何がブラックラベルだよ!」とつっこむところだが、
当時の私が知る限り、それが最高にカッコイイ注文の仕方だったのだ。
別に飲みたくもないバーボンを、しかもわざわざ高級なほうを選択するなんて、本当に馬鹿げたヤツだと思う。
でも、当時の私には、そうしなければならない理由があったのだ。
まず大前提として、バーボンを2つしか知らないという事実は、絶対に悟られてはならない。
とはいえ、「フォアロゼ」と「ハーパー」という、誰もが知ってる二枚看板で勝負するしかないので、
「まあ、いろいろ飲んでみたけど、これがけっこう好きなんだよね」という雰囲気を醸し出すほかない。
そんなとき好都合だったのが、フォアローゼズのブラックラベル(通称『黒バラ』)だったのだ。
「みんなはよくフォアロゼを飲むけれど、ブラックラベルのほうが深みがあっておいしいよね」
なんて雰囲気を漂わせつつ、注文すればそれでいいのだ。
変に緊張して口ごもったり、かんだりしない限り、たいていはうまくいくはずだ。
そうまでして『黒バラ』を注文するのには、もう一つ理由がある。
それは、「じつは、お金がない」ということを悟られないためだ。
『DUG』は決して高級な店ではないが、貧乏な若者がサイフを気にせず飲める店でもない。
(そもそも、貧乏な若者がサイフを気にせず飲めるバーなどほとんどない)
本音を言えば100円でも、10円でも安いほうがいい。
本来なら、高級な『黒バラ』をオーダーするなんて絶対に避けたい選択だ。
ところが、「お金がないと思われたらどうしよう・・・」という不安が強いために、
ちょっとだけ高いほうをわざわざ注文してしまうのだ。
男の見栄とか、貧乏人の不安とか、若者の経験不足なんかをすべてごちゃまぜにした結果、
「フォアロゼのブラックラベルを、ロックで」というオーダーに落ち着いてしまったのだ。
何だか切ないけれど、それがダンディズムというものである。
あれから10年以上経ったいま、
久しぶりに『DUG』へ行ってみると、拍子抜けするくらい、しっくりと落ち着いた普通のバーだった。
大人になった私は「黒バラ」なんて無益な代物はオーダーせず、
身の丈にあったカシスウーロンを、何の引け目も感じずに注文することができた。
背伸びをして飲みに来ていた『DUG』は、もうそこにはなく、
リラックスしてくつろげるレトロなジャズバーが、普通に存在しているだけだった。
それにしても、昔はバーボンを飲んで、いまはカシスウーロンを飲むなんて、
私もヘンテコな歳のとり方をしてしまったものだ。
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こんにちは 菓子酢ウーロンです。
第17回『カシスウー論』は、新宿にあるジャズバー『DUG』(ダグ)編です。
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靖国通り沿い、ちょうど紀伊国屋の裏あたりにジャズバー『DUG』はある。
目立たない看板の脇にガラス戸の入り口があって、その扉を開けると地下へ続く短い階段がある。
店内の壁はレンガ造りになっていて、木製のテーブルやイスはすべてが古びている。
オシャレかどうかという尺度で言えば、あんまりオシャレでない代物もあるが、古びていることに違いはない。
ジャズバーなので、当然店内にはなかなかのボリュームでジャズが流れていて、
昼間のカフェタイムでも照明はグッと抑えられている。
もちろん、夜のバータイムはさらに暗い。
『DUG』とは、まあそんな店だ。
ざっくり言ってしまえば、レトロなムードの「いい感じのジャズバー」というわけだ。
『DUG』は、村上春樹の小説に登場したことでもよく知られている。
たしか、「ノルウェイの森」のなかで、主人公が授業の帰りに立ち寄るという描写があったと思う。
私の知り合いには、授業の帰りにジャズバーに立ち寄るヤツなんて一人もいなかったが、
村上春樹の周りには、きっとそんな人がいたのだろう。
(あるいは村上春樹自身がそんな大学生だったのかもしれない)
いずれにしても、私も「ノルウェイの森」で『DUG』を知ったクチだ。
小説に出てきたジャズバーに実際に行ってみるなんて、いま思えば割とはずかしい行為だが、
当時(20代前半)の私はけっこうカッコイイと思っていた。
若い頃って、多かれ少なかれみんなそんな感じでしょ。
私の場合、もともと酒は飲めないし、ジャズになんてまったく興味はないのだが、
ときどき一人で『DUG』へ行っては、無理やり本を読んでいた。
本を読むには暗すぎるし、音楽はうるさかったけど、そんなことは気にならなかった。
そもそも、快適な空間で本を読みたかったわけではない。
大切なのは『DUG』で読むことだ。
店内が少しくらい暗くたって、弾むようなピアノがガンガン鳴り響いていたとしても、
それが『DUG』なら仕方がない。
そんなふうに思っていたんだと思う。たぶん、きっと・・・
ただ一つの問題は、何を注文するかだった。
昼間に行くときはコーヒーを飲んでいればそれでよかったが、
夜のバータイムではそうもいかない。
バータイムでは「何か、アルコールを頼まなきゃいけない」と勝手に思い込んいたので、
やむを得ず私は「フォアローゼズ」を注文していた。
カッコイイ酒といえば、バーボンに決まっている。(当時の思い込み)
そして、当時の私が知っているバーボンといえば「フォアローゼズ」と「I.W.ハーパー」しかなかった。
何にしたって、どちらかを注文するしか方法はない。
かなりさびしいリストではあるが、バーボンの銘柄を2つ知っていれば、たいていの場面は切り抜けることができた。
最初はフォアローゼズを飲んでおいて、しばらくしたら「次はハーパーにしようかな」なんてほざいておけば、それで事足りた。
ちなみに、「フォアローゼズ」にはブラックラベルという上級版(通称『黒バラ』)があったので、
相当無理をして、「フォアロゼのブラックラベルを、ロックで」なんて具合にオーダーしていた。
いまとなっては、「何がブラックラベルだよ!」とつっこむところだが、
当時の私が知る限り、それが最高にカッコイイ注文の仕方だったのだ。
別に飲みたくもないバーボンを、しかもわざわざ高級なほうを選択するなんて、本当に馬鹿げたヤツだと思う。
でも、当時の私には、そうしなければならない理由があったのだ。
まず大前提として、バーボンを2つしか知らないという事実は、絶対に悟られてはならない。
とはいえ、「フォアロゼ」と「ハーパー」という、誰もが知ってる二枚看板で勝負するしかないので、
「まあ、いろいろ飲んでみたけど、これがけっこう好きなんだよね」という雰囲気を醸し出すほかない。
そんなとき好都合だったのが、フォアローゼズのブラックラベル(通称『黒バラ』)だったのだ。
「みんなはよくフォアロゼを飲むけれど、ブラックラベルのほうが深みがあっておいしいよね」
なんて雰囲気を漂わせつつ、注文すればそれでいいのだ。
変に緊張して口ごもったり、かんだりしない限り、たいていはうまくいくはずだ。
そうまでして『黒バラ』を注文するのには、もう一つ理由がある。
それは、「じつは、お金がない」ということを悟られないためだ。
『DUG』は決して高級な店ではないが、貧乏な若者がサイフを気にせず飲める店でもない。
(そもそも、貧乏な若者がサイフを気にせず飲めるバーなどほとんどない)
本音を言えば100円でも、10円でも安いほうがいい。
本来なら、高級な『黒バラ』をオーダーするなんて絶対に避けたい選択だ。
ところが、「お金がないと思われたらどうしよう・・・」という不安が強いために、
ちょっとだけ高いほうをわざわざ注文してしまうのだ。
男の見栄とか、貧乏人の不安とか、若者の経験不足なんかをすべてごちゃまぜにした結果、
「フォアロゼのブラックラベルを、ロックで」というオーダーに落ち着いてしまったのだ。
何だか切ないけれど、それがダンディズムというものである。
あれから10年以上経ったいま、
久しぶりに『DUG』へ行ってみると、拍子抜けするくらい、しっくりと落ち着いた普通のバーだった。
大人になった私は「黒バラ」なんて無益な代物はオーダーせず、
身の丈にあったカシスウーロンを、何の引け目も感じずに注文することができた。
背伸びをして飲みに来ていた『DUG』は、もうそこにはなく、
リラックスしてくつろげるレトロなジャズバーが、普通に存在しているだけだった。
それにしても、昔はバーボンを飲んで、いまはカシスウーロンを飲むなんて、
私もヘンテコな歳のとり方をしてしまったものだ。
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