『昭和の遺書』(梯久美子)読了。
昭和を生きた著名人、一般人の遺書から、歴史をたどるという内容。取り上げられて
いるのは、芥川龍之介、226事件の関係者ら、大東亜戦を生きた山下奉文や山本五十
六のような著名な軍人から一兵士まで。また、近衛文麿ら政界関係者。戦後からは、
樺美智子や円谷幸吉、森恒夫、沢田教一、昭和を代表する事件や事故の関係者、そし
て昭和天皇。また文庫版では平成期の遺書を取り上げた補章が追加されている。
基本的には有名どころが多く取り上げられているので、近現代史が好きな人間であれ
ば、全文もしくは一部は見たことがあるものが多い印象。
以下、気になったものを幾つかメモしておく。
まず、磯部浅一。226事件の決起将校の一人。松竹映画『226』では竹中直人が演じて
いたな。磯部は他の決起将校や北一輝らと同じく刑死するが、他の決起者に比べて
遺書がかなり特徴的で、とにかく、ひたすらに怒り狂い憎悪をまき散らす。
特に昭和天皇への恨みつらみを述べた部分が有名だが、今回、改めて読み直して、陛
下への甘えというか「勝手に思い入れた挙句、思い通りになないので切れ散らかす」
様子は、ちょっと読むに堪えないと感じた。
また、磯部が獄中で、昭和天皇が側近に226事件に関し「日本もロシヤのようになっ
た」と述べたと聞いて怒り狂うのだが、昭和天皇の指摘は実に正しいと思う。どうも
226事件に関し、「決起将校らは真に日本のことを考え」「彼らは純忠の士で」といった
持ち上げ方をされることがあるが(※特に30年ほど前までは酷かった)、冷静に考えれ
ば、事件の背景には共産主義があったのではという疑いは、ピントの外れたものでは
無いと思う。今後、冷静な歴史研究が進む中で、何か資料が出てくるのではと期待し
ているが、オレが生きているうちに間に合うだろうか。
そして、オレがこれまで知らなかった人物だが、学生歌人の岸上大作。
日米安保をめぐるデモ華やかなりし頃の文学青年で、失恋を苦に21歳で自殺してい
る。経歴を見ると、著作は全て死後に刊行されており、恐らく、遺族もしくは作品に
感化された読者の中で岸上のことを広く知ってほしいと執念を燃やした人間がいたの
かなと想像している(宮沢賢治における清六のような)。
ただ、作品や本書で述べられる岸上の人間性などを見ていくと、申し訳ないが、自己
愛と顕示欲の強い革命ゴッコに参加していた人間が、早世した結果として一定の知名
度を得るに至っただけようにも見え、同じ事象を見ても人間には様々な感じ方がある
と感心した。
まあ、オレは学生運動に対して、かなりネガティブな感情を持っているので、その
点、色眼鏡があるのだろうが。
遺書にも様々あるが、強い思い入れや自己愛が感じられるものより、淡々としている
ものの方が好みだ。ガキの頃、昭和史の本で、初めて山崎晃嗣(光クラブ)の遺書を
読んだときに感心したのだが、今回、改めて皮肉さと酷いユーモアに感心した。好み
というものは、ガキの頃から変わらないものだ。
逆に、変わったのは子供に対する感覚だな。鹿川裕史君の事件(いじめによる自殺。
鹿川君は当時、中学2年生)は、事件当時、新聞・テレビで大きく取り上げられてお
り、何となく覚えていたが、きっちり遺書を読み通したのは、今回が初めてだった。
中学生がこんなに苦しまなければならんのか、と胸が痛む(ちょうど、ウチのガキが
似たような歳ということもあるのだろうが)。
もう40年近く前の事件ではあるが、改めて鹿川君の冥福と、いじめのようなバカげた
事件が減ることを祈りたい。