手術が終わり
集中治療室へ移った。
麻酔はすっかり切れ意識ははっきりしている。


集中治療室という場所で

小さな古いラジカセから

FM東京のラジオの声や音楽が聞こえる。

何故かそれがとても心地よくて、

あらためて、僕は現実世界に戻れた事を

確信したのであった。 


その日の集中治療室には僕を含めて

3人の患者と2名の看護師さんがいた。


夜になり僕は術後、時間が経つにつれ

痛みが増して来ている。

痛くて痛くて自力では上半身は動かせない。

ただこの部屋の中で今起きている状況は

全て耳に入るし、わかってしまう。

意識はしっかりしている。


一人の患者さんは、看護師さんに家族が呼ばれていたので、きっと間もなく人生の終焉を向かえる方だろう… 

一人は救急搬送されたにも関わらず、よく喋って

暴れる87歳の老婦人だ。ちなみに雀荘で

身体に痺れがあり搬送されたらしい(笑) 

この老婦人に(しかも金持ち!) 

消灯まではよく喋らせたのは看護師の作戦。

消灯時間になった途端、

ガラッと看護師さんの態度が変わった…


それはそうだ。

「あなたここは病院です、何をしにきたんですか、

命に関わりますよ、早く寝てください!」 

夜中までずっと付き合ってられない。

僕含めて他の患者もいる訳だし。

暴れられたらたまったもんじゃない。

それでも老婦人は今度は相手にされないからと、

呻き声をあげたりと散々やらかしていた。


看護師さん達も大変だなと

いくら仕事とは言え

本当に頭が下がる思いだ。 


ずっと同じ体勢だと床ずれができるから

たまに体勢を変えましょうと、

僕に一所懸命お世話をしてくれている。

が、どうしても痛くて痛くて寝返りさえも

できない。

「横向きに左手でその柵を掴んで!」 

左肺手術だから左から手動かせない!


「痛みは10のうちいくつですか!」

その迫力に「10のうち7デス…」


とちょっと遠慮したんだけど、

「珍しいな…」と吐き捨てられ(笑)

ようやく痛み止め点滴で増やします!

と、結局は助けてくれ

痛みから解放させてくれた。


看護師さん、疲れてるんだよな…

そんな看護師さんの態度に対して

僕は怒る気にはなれなかった。

僕はそういう性格だからかな、

癌になってしまったんだな…

とも思った。 


朝になって、

夜勤から昼担当の交代の儀式前に、

昨夜の 

江口のりこ風の看護師さんは

僕の身体を丁寧にキチンと綺麗に洗ってくれて

手術服から綺麗なパジャマに着替えさせてくれた。

愛のムチの看護師さん、素敵でした。


一般病棟へ移ってからも僕は痛みで

動けず、ベッドで昨夜の出来事を思い出した。


コレ、手術直後の動けない患者(主演)から見た

集中治療室の一日(他出演者4人)の

室内悲喜劇の脚本とか

三谷さんあたり、やってくれないかなって。