・アニミズムという世界観
アニミズムという言葉を初めて提唱したのは、イギリスの文化人類学者であるエドワード・タイラー(1832-1917)。著書『原始文化』内で提唱した19世紀後半、「原初的宗教」の特徴をあらわすのに、「アニミズム」という言葉を使用しました。
アニミズムとは、自然界すべての物に魂が宿るとされている「精神文化」のことです。太陽や月、風のほか、あらゆる現象、さらには学問や商売など、世のなかに存在するすべてのものに神が宿っているという考え方で、ラテン語で霊魂を意味する「アニマ(anima)」からつくられた用語ですが、世界中のさまざまな民族風習に見られることから、すべての宗教の原点であると考えられています。
このアニミズムという考え方は、縄文時代に誕生し、人類にとって最も古い精霊信仰であるとされています。当時は、自分たちの命をつなぐために命がけで動物たちの狩りをしていました。逆に動物たちも人間を狩りの対象として見ていたわけです。動物は家畜ではありませんでしたから、大自然の中で、動物は決して人間よりも格下の存在ではなく、すべての動物が対等な立場で存在していた時代です。私たち人間も特別な存在ではなく、人間も自然の一部であることを認識し、自然を壊さないように心掛け、自然を神や霊として敬い、相互に敬いあってそれぞれが生命を全うするという価値観が根付いていました。神や霊だからといって絶対の権力を崇めへつらうのではなく、山や川、火や水などの自然のものに感謝を忘れず、敬いながらも対等な立場で向き合うというのがアニミズムでした。
アニミズムは縄文時代に生まれたと考えられていますが、今もなお、日本人の心の奥深くに根付いています。先進諸国の中でも、アニミズム的価値観が残っている日本はとても珍しいようです。現代の日本人の宗教観も、縄文時代に培われた「アニミズム」という宗教感によって形作られています。私たち日本人は、どの神様もどの仏様も敬い祈ることができる宗教観を持っています。正月は神社に行き、クリスマスを祝い、教会で結婚式を執り行い、仏式で葬式をあげたり、ヒンドゥー教の流れを汲むヨーガをすることは、世界から見れば、無節操で無宗教であるとみられることも少なくありません。しかし私たちは、特別にそれを宗教とは意識せずに日常生活を過ごしています。日本人は、それだけ、神仏と暮らしが密接につながっているとも考えられます。日本人は心のどこかで「悪いことをするとバチが当たる」「良いことをするとそれをどこかで神様が見ててくれている」と思いながら生きています。西洋文化は自然と対峙する文化ですが、日本文化は自然と協調する文化です。哲学や建築などあらゆる場面で日本にはアニミズム的な価値観が残っています。これからも大切にしていきたい考え方です。
便利さだけを追求する現代社会の対極に位置するアニミズムは、人間だけが決して特別な存在ではなく、動物や植物など、あらゆるものが大切であるという環境保全意識にもつながっていて、世界的にも注目されています。当たり前のことですが、「地球上に生きているのは人間だけではない」のは当たり前ですが、さらに「自分のことのように周りを大切にすることができなければ、やがて自分自身も滅びる」ということさえ認識させられます。常に敬意を払って扱うという謙虚な姿勢は、日々の忙しさの中で忘れてしまいがちな大切なものを思い起こさせてくれます。
参考引用:世界ミステリーch【神話と宗教】宗教の原点「アニミズム」とは何か?