もしただ一冊だけの本を選べといわれたら私は高村光太郎の「智恵子抄」を挙げるだろう。

あんなに他人の心を抉る恋を私は知らない。

あんなに完成された愛を私は知らない。

全てが円を描き廻り廻って智恵子へと還元される。

人に薦めたい本は、と聞かれても私はこの詩集を真っ先に思い出すだろう。

あの儚いけれど、それでも確固としたものをもつ願いたちを。

特に最近は、ずっと頭の中で廻っている詩がある。


「人に」


この詩が、頭を離れない。

ああ、高村氏よ。

私はきっと貴方の悲哀や憐憫のひとかけも理解できていないでしょう。

それでも私はこの詩が己の心のようでならないのです。

そう、まさしく

いやなんです

あなたがいってしまふのが――