※暗いです。



今なら、老いて寝たきりになった妻が不憫でその手に駆けてしまう夫の気持ちが痛いほど分かる。

十五年近く連れ添った愛犬の命の灯火が、消えようとしている。

医者はもう栄養剤の点滴を打つばかり。

歩くことも一日の内ほんの数分しか出来ない。

食事もここ数日ろくに摂っていない。食べてもすぐ吐いてしまう。

呼吸も乱れがちで横になっていることすら辛そうだ。

いっそ、という思いが込み上げてくる。

ああ、私は今になって漸く彼らの気持ちを理解した。してしまった。

ほんの少し、この手に力を加えるだけでいいのだ。

そうすればもう苦しむことはない。

けれどそれは私のエゴだ。

見ていられないという私の逃避を正当化させるための逃げ道だ。

今目の前で必死で生きているのに私は。

行き場のない手を握り締め、ただその小さな体を見下ろすしか出来ないのだ。

この手はその命を奪うことは容易いのに、救うことは容易ではない。矮小な手だ。

私はただ側に居てやることしか出来ず、そしてそれすら日常の柵の所為で満足に過ごせない。

一日中側に居てやれない現実という名の柵。

何も出来なくてごめんね。

側にいることすら、僅かな時間しか取れなくてごめんね。

何より、今この手で終わらせたほうが、なんて思って、ごめん。

おねがいだから、わたしをおいて逝かないで。