今日、今年初めての蝉の鳴き声を聞いた。
漸く夏がまた廻ってきたのだと実感する。
あれから、一年が過ぎたのだ。

一年前、俺と真田は全てを捨てて逃げ出した。

真田の親に、俺たちの関係がばれたのだ。
当然のように彼らは猛反対で、その結果、俺の親にもばれた。
俺の親はそういうことには寛大で、最初こそ戸惑っていたようだったが、最後に顔を合わせた時、両親はただ、好きにしなさい、後悔のないように、と笑っていた。
普通の大学生だった俺はともかく、真田は留学から帰ってきてプロとしての第一歩を踏み出したばかりの頃だっただけに、真田の方は凄まじかった。
けれど、真田のお祖父さんが俺を指差して「汚点」呼ばわりした途端、真田が切れた。
出て行く、と啖呵を切って、そのままテニスバッグも持たず、俺の手を引いて飛び出した。
頭に血の上っている真田に、俺はただ呆然と、半ば引きずられるようにして走った。
蝉の鳴き声が煩かったことしか覚えていない。
そのまま電車に飛び乗って、新幹線に乗り換えて、随分、寒い所まで来てしまった。
幸い、お互い通帳こそ持ってなかったがキャッシュカードは持っていたので途中の駅で全額引き出しておいた。
二人で狭い部屋を借りて、新しい口座も作って、携帯電話も買って最低限の身の回りの物を揃えた。
突発的な逃避行について真田は何も言わなかった。俺も何も言わなかった。
お互いに何とかアルバイトと貯金で日を繋ぎ、一ヶ月が過ぎた頃、漸く俺は俺の親にだけは連絡してもいいだろうかと尋ねた。
俺たちの事を受け入れてくれていた二人にだけは、これ以上心配かけたくなかった。
真田も俺の親の事は気がかりだったのだろう、了承してくれた。
電話すると、母が出た。彼女は笑って許してくれた。
あちらさんには内緒にしておいて上げるから、住所教えなさい。身の回りのもの、足りてないんでしょう?
ありがとう、と言うだけで精一杯だった。泣いてしまいそうだった。
それからは時折俺の親とは連絡を取りながらも、それでも帰ろうとはしなかった。
真田の失踪はテニス雑誌にも載ったが、真田によってその雑誌はすぐに捨てられてしまった。
真田はあれからテニスラケットを買いなおして、夜になるとストリートテニスへ軽く打ちにいくようになった。俺はもう現役を退いて久しいので簡単な打ち合いの相手しか出来なかったけれど、その球に真田の葛藤が込められているようで辛かった。
それでも俺は、帰ろうとは言い出せなかった。
引き裂かれるよりは、このまま二人でこの街に埋もれてしまったほうがいいような気がして。

あれから、一年が過ぎた。

こちらで蝉が鳴き出したという事は、あちらではもう疾うに鳴き盛っている頃だろう。
嘗ての仲間たちは今頃、どうしているだろうか。
青学の仲間たちは、真田との関係を知っている。
だからテニス雑誌で真田の失踪が掲載された時、マンションの方には何回も電話が掛かってきたらしい。親は適当に誤魔化してくれたらしいが。

不意に蝉の鳴き声が途絶えた。

俺は意識して息を深く吸い込み、傍らの男を見た。
「ねえ、真田、もう、帰ろうか」
どこへ、とは言わない。それを決めるのは真田だ。
「…ああ、そうだな」
テニスラケットをバッグにしまい、俺たちはベンチから立ち上がる。
さあ、帰ろう。







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なんかしょぼんとした気分だったのでそれっぽいのをサイトから引っ張ってきてみた。(爆)

サイトもブログも見てる人から見れば何してんのって感じでしょうけどね。(苦笑)

携帯からだとブログのほうしか見れないみたいだし。なので、おすそ分け。(日本語おかしい)