手塚はいつも乾と帰路を共にする。
それは道が別れるまでの僅かな距離だったが、手塚はそれだけで十分だった。
自分と乾がどういう関係なのか、手塚自身よく判っていない。
手塚は乾が好きだったし、乾にもそう告げた。
けれど乾はそれに頷いただけで拒絶することも受け入れることも無かった。
いつもどおりの変わらぬ日常。
最初は戸惑ったし、明確な意図を示さない乾に苛立ったりもしたのだが、今ではこれで良いと思っている。
もしかしたらこれが乾なりの優しさなのかもしれないのだから。
下手にそれ以上を望んで、距離を置かれたくはない。
乾が自分を拒絶しないでいてくれる。
ただそれだけで良かった。
「手塚」
あと少し歩けば二人の時間も終わりという頃、不意に乾が手塚を呼んだ。
呼ばれるままに乾を見上げると、彼は手塚を見下ろしていた。
「乾?」
逆光になって表情が良く見えない。
その分厚い眼鏡だけが光を反射して、困惑気味の表情をした手塚を映し出している。
「手塚…」
いつもの他愛の無い話をする時のトーンとは違う、一層低いそれに手塚はぎくりとする。
まさか、と嫌な予感が湧き上がる。
多くは望まない。だから、傍らに在る事くらいは許して欲しい。
そう願って今まで乾の傍らに在った。
けれど乾はもうそれすら耐えられなくなってしまったのだろうか。
乾、と呼んだ筈なのに、声が喉に詰まって音にならない。

「手塚、あのね…」

紡ぎだされた言葉に手塚の切れ長の眼が見開かれる。
ああ、これは夢だ。現実であるはずが無い。
けれど。

「乾っ…!」

そうして、一つの世界が終わりを告げた。




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バッドEDかハッピーEDかはご想像にお任せします。
何か、曖昧な話が書きたかった。(爆)