痛む全身に、シャアは薄らと目を開けた。
「……私は、生きているのか…」
しかし夜の支配する時間らしく視界は暗く、けれども遠い空に輝く星々が見えた。
「…ああ、生きてるよ、何とかね」
す、と夜空を遮った影の声に、シャアは僅かに口角を持ち上げてみせる。
「…ふ…まさかあの状況から生き延びるとはな…」
皮肉げな呟きに、影は応えない。
ごそりと身動きしたかと思えば、額に何かが当てられた。
彼の掌だ。
生身のその掌は、冷たくて気持ちが良かった。
「あなた、少し発熱してる」
「きみの手は気持ちがいいな」
「熱のせいだよ」
「そうか」
「そうだよ」
そして暫くの沈黙が支配する。
そこに至って漸くシャアはここが何処か森の中だということに気付けるまでになった。
すぐ傍らには、輪郭を歪にした彼の愛機。
暗くてよく見えないが、もう、その清廉なまでに純白だったはずの機体は月の光を全く反射しなかった。
それもそうだろう。
自分たちがこうしているだけでも十分奇跡に近いのだから。
「……私を殺さないのか」
やがて呟くと、額に当てられていた掌が離れた。
その掌はシャアの熱を吸って既に暖かくなっていたけれど、気持ちよさは変わらなかったので少しだけ惜しいと思った。
「殺さないよ」
微かに笑う気配がした。
「シャア、知らないだろ。隕石を落とそうとしたって、コロニーを落とそうとしたって、何をしたってあなたは成功しない。するはずがない」
「なぜ」
「だって僕が止めてしまうから」
可笑しそうでいて、柔らかな声はシャアの耳によく馴染んだ。
知らないでしょう、あなた。
「そして、失敗したあなたが宇宙で行方不明になっても、地球に落っこちても、あなたは死なないんだよ」
僕が探し出すから。
僕が、守るから。
「だって、僕はあなたが好きなのだもの」
知らなかったでしょう。けれど。
「死ぬなんて許さない」
ああ。シャアは思う。
痛み如きで動けぬこの四肢がなんとも憎らしい。
「…アムロ、ああ、アムロ」
私は口惜しい。悔しくてたまらない。
「きみがこんなに傍にいるのに、私は君を抱きしめることも出来ないのだな」