黒羽が待ち合わせ場所に行くと、珍しく乾は既にそこに居た。
ただし、見知らぬ男と一緒、というオマケつきだったが。
二十代後半だろうか、整った顔立ちのその男と乾は和気藹々という言葉がぴったりな雰囲気で何事かを話している。
黒羽は自分がそれほど嫉妬する方ではないという自覚はあったが、気にならないわけではない。
乾と付き合うようになってもう半年近く経つ。
なのに乾はお得意のデータ収集で黒羽の事なら大抵の事は知っていたが、黒羽の方はと言うと、彼の交友関係すらろくに知らないままだ。
元々根掘り葉掘り聞くような性格でもないのも災いして、黒羽が知る限り乾の交友関係はテニス関係者しか知らない。
これはもしかして、余り宜しくない傾向…なのか?
そんな事を考えていると、さすがに人込みの中で突っ立っている黒羽の姿は目立ったのだろう、乾が気づいてこちらに手を振ってきた。
取りあえず乾の元に駆け寄ると、傍らの男もぺこりと会釈をしたのでこちらも会釈を返した。
「それじゃあ、また」
「はい。またお邪魔させていただきますね」
男の笑顔に乾も笑顔で返すと、彼は踵を返して去っていった。
その後姿を見送る乾に、黒羽は思い切って聞いてみることにした。
「…今の人、誰だ?」
すると乾はあっさりと「ああ、あの人はね」と教えてくれた。
「手塚の従兄弟だよ」
「手塚って…青学部長の?」
「元、だけどね。今は桃城が部長だよ。あの人は喫茶店を営んでいるんだけど、たまたまこっちに買出しに来てたみたいでね。つい話し込んじゃった」
確かに言われて見れば手塚国光の顔立ちに似てないこともない気がする。
「へえ、そうだったのか」
すると乾は何が可笑しいのか、突然くつくつと喉を鳴らして笑い出した。
「どうしたんだ?」
「いや、バネが俺の事聞いてくるのって珍しかったから」
「嫌だったか?」
「ううん」
今度は穏やかに乾は微笑んだ。
「今まで何にも聞いてこなかったから、俺の事あんまり興味がないのかなって思ってた」
「そんなワケあるかよ。ただ、」
「うん、バネの性格からしてアレコレ詮索するのは趣味じゃないんだろうけど、でもちょっと嬉しかったから」
「そうかよ」
するりと乾の指が黒羽の指に絡みつき、自然と手を繋いで二人は歩き出した。
「なら、もう少し聞いていいか、お前の事」
「答えられる範囲なら、どれだけでも」