目が覚めると、そこに居たはずの姿が無かった。
「ちぃちゃん?」
返事はない。
枕代わりにしていた座布団の傍らに眼鏡が置かれている。自分で外した覚えは無かったので、彼が外したのだろう。
眼鏡を掛け、辺りを見回す。しかし室内に目的の姿は無い。
ゆっくりと身を起こすと肩からタオルケットが滑り落ちた。これも彼がかけてくれたのだろう。そこから這い出してのそりと立ち上がる。
襖を開け、縁側に出ると外は紅一色だった。
庭の緑も、今は紅に染まっている。
知念は、何処に行ったのだろう。
きょろりと辺りを見回す。知念の家は広い。けれど大抵は誰かしらの気配があったものだが今はそれが無い。
一枚の静止画に迷い込んでしまったような感覚。
「ちぃちゃん」
それを打ち破るかのように乾は声を上げた。
かたん、と勝手口が開く音に乾は振り返る。
「ハル、起きたかあ」
買い物にでも行っていたのか、白いビニル袋を手に提げた知念が乾を見て笑った。
「ちぃちゃんっ」
乾は裸足のまま縁側を飛び出し、庭に降り立った。
そのまま知念に飛びつくと、彼は乾を抱きとめてぽん、とその背を優しく叩いた。
「ハル?なした?」
「ん、あのね、」
轟、と頭上を戦闘機が通り過ぎていき、乾の呟きはかき消される。
「ん?」
「ん。なんでもない」
小首を傾げる知念に、乾は少しだけ上体を離して微笑った。