関東大会が終わって以来、乾はちょくちょく立海にやってくる。
それは偵察という名目ではあったが、その割に堂々とフェンスの前に立ってるし、仁王たちにちょっかいをかけられては可笑しそうに笑っている。
けれど、柳と話しているときだけはちょっと違うと丸井は思う。
仁王たちと話しているときは穏やかにふわっとした感じで笑うのに、柳の前でだけは何て言うか、すいっと唇に笑みを掃くような感じだ。
何処かで見たような笑い方。
口元だけで微笑んで、中身を見せない笑い方。
あ、そうだ。柳がそんな笑い方してた気がする。
そう思い至ったと同時に視線の先で何か話し合っていた柳と乾が微笑った。
フェンス越しのそれは鏡像のようにそっくりで、何処か薄気味悪かった。
乾は自覚しているのだろうか。己が柳の前では柳と同じ様に微笑っている事に。
まるで、柳の後を追うように。未だ自分を支配しているのはこの男だと言うように。
「いーぬい!」
たまらず丸井は乾を呼んだ。二人がこちらを見る。
ちょいちょいと手招きをすれば、彼は柳に一言断ってからこちらにやってきた。
「なに、丸井」
「これ、やる」
フェンスの隙間から一枚のガムを差し出す。
それをきょとんとした目で受け取って、そして彼は笑った。
「ありがとう」
ああ、やっぱりこっちの笑顔の方が断然良い。