「……」
仁王はしゃがみ込んで目の前ね寝こける乾をじっと観察していた。
偵察に来ていたのは知っていたが、部活が終わって着替えてさあ帰るかとコート脇を通ったら木陰ですよすよと寝入っている乾を発見した。
といってもいつもの不透過眼鏡健在なので近づくまでは分からなかったが、ここまで近づいても全く無反応と言うことはやはり寝ているのだろう。
仁王はじろじろと乾を上から下からと見回す。
テニスをやっているとは思えないほどの白く肌理の細かい肌。
無駄な肉のついていない鍛えられた、しかし自分より細いのではないかと思う腕。
ほっそりとした指や掌に出来たテニス胼胝。
その分厚い不透過眼鏡の下は関東大会の時、一度だけ見たことがある。
整った二重に深い色合いの瞳。
今眼鏡を外したらさすがに起きるだろうか。
そんな事を思いながらもそっと乾の傍らに手をつき、身を乗り出してみる。
薄い唇が微かに開き、そこから微かな寝息が漏れている。
「…食っちゃいたいくらい可愛ええのぉ」
ぼそりと呟いて顔を寄せると、「あー!!」と背後から悲鳴が上がって仁王は舌打ちした。
「参謀!仁王先輩が乾さん襲ってるっすー!!」
赤也の叫び声に乾が小さく声を上げた。
あ、起きるな。仁王はそう思いながらもさっさと身を起こし、赤也を振り返った。
「覗き見はあかんのぉ赤也」
「人のものに手を出すのもいけないな、仁王」
すっと赤也の傍らを通り過ぎてこちらに歩み寄ってくる柳のプレッシャーに仁王はすたこらと踵を返して駆け出した。
「参謀のもんでもないじゃろー」
笑いながら逃げていく背後で、乾の「あれ?みんな何してんの?」というのんびりした声や「お前は警戒心がなさ過ぎる!」という柳の怒声が聞こえてくる。赤也も何か叫んでいるようだ。
「次は貰うぜよ」
そんなやり取りを後にそう呟き、足取りも軽く仁王は帰路についた。
***
未遂でした。
連載ではしっかり摘み食いってるのでこっちでは未遂にしてみました。(爆)