全国大会緒戦、青学VS比嘉は青学の全勝に終わった。
それぞれが帰り支度をする中、乾は辺りをきょろきょろと見回していた。
「乾先輩?」
桃城の声に生返事を返していた乾が「あ」と声を上げて駆け出した。
「乾せん…ってあれは、比嘉中!」
乾が向かった先には比嘉中の部長である木手と、確か知念といった男が立っていた。
彼らのプレイスタイルなだけに咄嗟に桃城や海堂が乾の元へ駆け寄ろうとするが、当の乾がそのまま彼より長身の男、知念に飛びついてしまったので呆気に取られて立ち尽くした。
「ちぃちゃん久しぶり!」
「はいさいぃ」
嬉しそうな乾の声に桃城たちは言葉も無い。ていうか「ちぃちゃん」て。
「ちぃオジーは元気?」
「はぁやぁ。ハルは相変わらずちむがなさんなぁ」
するとすぱーんと景気の良い音が響いた。
「あっがー!木手ぇ!」
木手が知念の背中を思い切りひっぱたいたのだ。
「ウチのモンに手を出すんじゃありませんよ」
「あー、しろも頭大丈夫?」
漸く知念から離れた乾がひらひらと手を振って言うと、「頭の『怪我』を抜かすんじゃありません!」と叱られた。
その様を桃城たちは唖然として見ていた。
あの乾がまるで子供のようにへらへらとしている。
「だってしろってばメールしても返ってこないし。ちぃちゃんや平古場たちはちゃんと返してくれるのに」
「くだらないメールばかり送ってくるからです。あといい加減に子供みたいな呼び方は止めなさい」
「俺の勝手ですー。それよりちぃちゃん、アレ、持って来てくれた?」
「だぁ、クリな」
知念が鞄から取り出したのは、何故か一升瓶。
乾はそれを嬉々として受け取っている。
「うわあ、ありがとう!」
「市販のもので十分でしょうに」
「ダメ。ちぃちゃんちのがいいの。これ俺のこだわり」
「そんな妙なこだわりは捨ててしまいなさい。全く、コレで用事は済んだでしょう?行きますよ!」
「うん。後でホテル遊びに行くねー」
「来なくて結構!」
足音荒く去っていく木手の後姿を見送り、知念は肩を竦めた。
「はぁやぁ、素直やないやっさぁ」
「ああいうところは変わらないよね」
「早くなさい!」
「あいあい。またやーさい、ハル」
くしゃりと髪を撫でて木手の元へ急ぐ知念の背に乾は一升瓶をしっかと抱えたまま「また後でねー」と声をかけた。
「さて。…ん?」
くるっと振り返った先では後輩二人がぽかんと立ち尽くしており、しかもその背後でも不二たちが自分を見ている。
「どうかしたかい?」
「いや、どうかしたっていうか…」
寧ろアンタがどうした。
「知り合い、なんすか」
海堂の問いかけに乾はうーん、と少し考えた後、頷いた。
「まあ、色々と、ね」
そう笑う乾はいつもの乾だ。
先程の子供じみた乾は何処へ行ったのだろう。いやあれは幻か。
「それで、その一升瓶は何なんすか?」
「ああ、これ?コーレーグース」
「コーレーグース?」
「簡単に言うと島唐辛子を泡盛で漬け込んだ辛味調味料だよ」
…何となく、嫌な予感がするのは気の所為か。
「…それで、その、コーレーグースとやらをどうするつもりっすか」
「うん、ペナル茶の材料」
…ああ、やっぱり。
がっくりと項垂れる後輩二人を尻目に、辛い物好きの不二が寄って来た。
「わあ、市販の小瓶は見たことあるけど一升瓶で見るのは初めてだよ」
「知念家の自家製は市販品より辛いよ。きっと不二も気に入るんじゃないかな」
「ねえ乾、良かったら少し分けてよ」
「いいよ。小分けして明日学校に持っていくよ」
「ありがとう!乾大好き!」
どさくさにまぎれに抱きつく不二を止める気力も無く、後輩二人は項垂れた。
明日の部活、死ぬかもしれない。



***
収拾がつかなくなった。(爆)
コーレーグース大好きです。何にでもぶちこみます。味噌汁とか麺類は基本。
唐辛子なら何でも出来るかなーと思って去年畑で栽培してた島唐辛子でのスタンダードなコレグスと一緒に、これまた畑で栽培してたハバネロで漬けてみた所、殺傷能力の高いシロモノができてしまい、恐ろしくて倉庫に封印しました。もう二度と蓋を開けまいと誓った夏の日。(爆)