MBAにも日本人女性は3人いる。NaokoとMimiは同じグループになったこともあるが、Eriだけはクラスは一緒になったがグループでは一緒になっていない。しかし彼女が一番かかわりがあったと思う

Eriは娘がいるらしい。しかしどうやら離婚しているようだ。あまり込み入った話は聞いていないが、娘は自分の親に預けて単身で留学に来ているのだろう

最初にEriと知り合ったのは昨年10月上旬のことだ。みんなで最初の課題であるマーケティングのレポートで集まった時である


第一印象は決して良くなかった。ぶっきらぼうな男まさりの女性だった


彼女はアカウンティングは得意でなかった。同じ日本人学生のKenが勉強会を主催していて、彼女はその勉強会のメインメンバーだったようだ


Kenはスパルタ式で講義をしていたらしい。遠目で見た限りでは彼は気分よくニコニコしながら教えていたが、さながらジャイアンの空き地のリサイタルのようだったのかもしれない

尤も、路地裏はKenの補習には参加していなかった。10月末のアカウンティングのテストの前日にも勉強会をやっていたようだ。路地裏が個室で作業をしていた時にEriが訪ねてきた

Kenの作ったリース会計の問題を教えてほしいとのことだった。15分くらいかけて教えたあと、彼女はKenの補習部屋に戻っていった


どうやら補習部屋がピリピリしていて助けを求めに来たのだろう

そのあと、彼女からModule1が終わったタイミングでみんなで飲みに行くという誘いがあった。メンバーは彼女を入れて5人、ケンブリッジのとある中華料理店だった

彼女は人の好き嫌いが激しそうに思えた。なので声をかけられた時点で少なくとも嫌われてはいないのだろう

その後も何か会計に関することについてLINEで質問をうけ、そのやり取りをしたぐらいだ。2月のデータの課題でも、少し知恵を出し合ったくらいだ

Eriのすごいところは物怖じせずに教授や同級生には声をかけて疑問を解決する行動力と、義理堅いところだ。教えを請うたあと、コーヒーを持ってきてくれたこともあった

3月からModule4が始まると、彼女と一緒のクラスになった。路地裏は学校の6階の自習室にこもっており、何か課題の確認とか質問があるとためらいもなく彼女は入ってくる


いつも彼女は日の当たる部屋か広い部屋を好んで1人で使っていた。まさに大物感が漂っていた


4月のある日の朝、徐に彼女がやってきてドーナツをもらった。朝食で買ったのだが多いのであげるとのことだった。さすがにもらうだけでは申し訳なかったので、インスタントコーヒーを彼女にお返しした

その日の夕方は校舎の1階で卒業生とのイベントがあったようだ。彼女はわざわざ知らせに来てくれた。路地裏はそういうパーティーは苦手だったので参加せず、荷物を置いて買い物に出かけた

戻ってみると、路地裏の部屋に料理が盛られた皿が置かれていた。きっと彼女が置いてくれたのだろう。彼女が戻ってきたときにお礼を伝えた

それにしても義理堅いというかあまり気を使いすぎる関係も良くないと思うのだが、何かされたらお返しをするという人はあまりで会ったことはないので印象に残る

先週末、最後の課題をやるため、集まった。Eriもいた。あれやこれやみんなで勉強していたところ、彼女はどこかに電話していた。その後すぐにデータが得意なインド人の同級生が表れてきた。そして彼女は彼に課題をやってもらうことをお願いして、彼は引き受けてくれた。そしてみんな課題に悪戦苦闘する中、彼女はインド人の彼とディナーに行ってしまった

みんなあっけらかんとしてしまった。彼女は何でも自分でやろうとするのではなく、使えるものはリソースとして使って、レバレッジをかけて成果を出すタイプの人だと思った。件のインド人も、彼女は日本人には思えないと言っていた

もちろんその課題には他人にやってもらうなという注意書きがあった。しかし、MBAの単位を取るという目的のために使えるリソースは何でも使って成果を出すという合理的な考えの持ち主なのだ

しばらくして彼女からLINEでテストの画像が送られてきた。人によって資料は異なるが設問の形式は同じようだ。わざわざ共有してくれるあたり、彼女らしいなと思う

そして翌朝、彼女はホノルルへ行ってしまった。Spring Breakはハワイで過ごすとのことだ。単に要領がいいだけでなく、お世話になった人への感謝を忘れず、そして自分でも粘り強く取り組む人だからこそ、憎めない人である

MBAに行く前だったらきっと路地裏にとって嫌な人に映っていたかもしれない。ボストンに来てから半年以上たち、考え方も変わったのだろう

残り少ない夏学期も今までと変わらぬ付き合いができればと思う