ハコ企業への道 その3(現物出資と破滅、優良子会社からの転落編 前編) | たにやんのブログ

たにやんのブログ

会計、開示、その他

少し間が空きましたが、ハコ企業シリーズ続編です。
(この話は事実を元にしたフィクションです)

今回の話は、前回の「その2」と同時進行で進んでいた出来事になります。

前回「その2」で取り上げた会社は、多くの会社を買収し、それを傘下に収め、事業セグメントごとに組織再編を行い、当初は収益力の強化を図っていましたが、この会社もその中の一社でした。

①どんな企業だったか
元々は関西で創業した、ジャスダック上場の小売店と、中国地方を中心に展開する同一事業内容の小売店の2社を買収後に経営統合した会社でした。大手メーカーからも優秀な経営メンバーを迎え入れ、買収した事業の底上げに取り組んでいました。
この会社は、世間では成長性がないと見込まれていた事業分野であったことから、純資産価格を下回る株価で買収できたことも幸いして、計画より早くその成果も現れ、利益率は低いながらも安定して黒字を計上していました。

経営統合の際も、事業規模の割に多くの記者を集めての発表会を行い、マスメディアにもその様子が取り上げられました。個人投資家対象の会社説明会も何度か開催し、その都度大入り満員の盛況に終わり、期待の高さと、事業をテコ入れし、企業価値を上げることができた成果にひとまず安堵していました。

②異変
ある年の夏のことでした。親会社から、シンジケートローンの財務制限条項に抵触し、借入金を全て返さなければならなくなったと連絡がありました。しかし、同社については収益源であり、優良会社であることから売却はしないと当初は伝えられていました。

この会社は風評にもめげず、相変わらず安定して利益を出し続けていましたが、親会社の財務状況は日々悪化し、いつ資金繰りがショートしてもおかしくない状況が続いた事から、いつしか株式は親会社の借入のためノンバンクの担保に入っていました。その上に、保有する手元資金についても有無を言わさず吸い上げられ、親会社の運転資金に流用される状況でした。

③売却
年が明けた頃には、親会社の財務状況はさらに深刻な状況を迎えていました。この会社についても、当初の方針から転換し、株式を売却をする事が決まり、売却候補先の選定に入りました。

そこでいくつかの候補が現れては消えて行きましたが、最後に2社が残り、1社は同業の業界最大手企業、もう1社は、近年M&Aにより急速に多角化を進めていた、ジャスダック上場の建設会社でした。

入札になり、条件の提示が行われました。
同業で業界最大手の会社は、全株引き取る代わりに、株価は大幅ディスカウントされた価格を提示してきました。一方で建設会社の方は、とりあえず保有株式の半分の譲渡を受け、残りは半年後の譲渡にするが、株価は時価か、それにプレミアムを乗せた金額にするというものでした。

建設会社の提案について、株価の条件が良いのはもちろんの事、TOB規制を免れ(※当時)、相対での取引が可能である点、また、株式を借入の担保に差入れていましたが、その解除が半分で済む点、半分の譲渡だと、持分法適用会社として引き続き損益の取込ができるなどの点から、親会社からはこちらを優先するよう、この会社に対して要請がありました。

この会社の取締役会は4名構成でしたが、3名が建設会社への譲渡に賛成、1名は同業者への売却を主張して反対したものの、結局、建設会社への売却が決定しました。

建設会社への売却に反対した取締役は、株式譲渡後に取締役を退任し、同時期に会社も退職しました。

④親会社の異動
株式譲渡後はしばらく、2社の持分法であった事から、譲渡先の新しい親会社だけでなく、従来の親会社にも財務報告を行う日々が続きました。しかし、この間の混乱により両社の関係は悪化しており、従来の親会社の経理が催促しても数字が出ずに、決算開示の3日前にようやく試算表が出てきたなどということもありました。

しばらくして、従来の親会社が資金繰りに行き詰まった事から、民事再生の申し立てを行ったものの再生計画の承認が受けられず、結局破産しました。
この会社の残りの株式は建設会社が取得する事となり、正式に同社の連結子会社となりました。

この時点で、すでに多くの社員は退職しており、役員も大半が入れ替わり、事業についても徐々に先行きが怪しくなりつつありました。

→後編へ続く