日本生命保険は21日、2035年度に本業のもうけにあたる基礎利益を足元の2倍にあたる1兆4000億円程度まで高める計画を発表した。3年間で2兆円以上の戦略投資枠を設け、他の大手生保に比べて後れをとる北米でM&A(合併買収)などを積極化する。国内では顧客接点の獲得へ介護や子育てなど非保険領域を拡大する方針だ。24年度から3カ年の中期経営計画と35年度の長期ビジョンを公表した。グループ基礎利益について、21〜23年度の年平均が6800億円程度なのに対し、26年度に2割増の8600億円、35年度には約1兆4000億円を目指す。1兆円を超える基礎利益の目標を置くのは創業以来初めて。日本生命の清水博社長は21日の記者会見で35年度の事業別の利益について、「国内保険事業で約1兆円、海外を中心に国内保険事業以外で約4000億円を想定している」と述べた。単純計算で利益を7000億円程度上乗せする必要があり、ハードルは高い。特にてこ入れを図るのが海外事業だ。24年度からの3年間で国内を含めた新規の戦略投資枠を2兆円超設ける。人口減少で国内生保市場の縮小が見込まれるなか、収益源の拡大が急務になっている。日本生命はすでに米資産運用大手TCW、米国やオーストラリアで保険の既契約を買い取る事業を展開するレゾリューションライフを持ち分法適用会社としている。「まずはTCWやレゾリューションの持ち分比率を高めることを優先的に検討する」(日本生命幹部)新規のM&Aも有力な選択肢だ。個人年金の領域など安定した成長が見込める北米の生保、米国や欧州など先進国の資産運用会社が候補先としてあがる。1案件あたり1兆円を超える大型買収も辞さない構えだ。「米国への事業展開の遅れ、既存の出資先が当初の想定より成長していないことは課題として認識している」(清水氏)。グループ全体の利益に占める海外比率は23年度も4%程度にとどまる見通しで、30%を超える第一生命ホールディングス(HD)をはじめ、明治安田生命保険や住友生命保険にも見劣りする。日本生命以外の3生保はこれまでの買収を通じ、傘下に北米の中核生保子会社を収めている。日本生命は16年に初の大型出資としてオーストラリアの生保MLCを約1600億円で買収したが、豪政府の規制強化やIT(情報技術)システム更新時のトラブルの影響で800億円を超える追加出資を3度も余儀なくされるなどつまずいた。それ以降も北米の大型買収を模索してきたが実行には至っていない。国内では非保険領域の拡大を進める。約3年の新型コロナウイルス禍を経て顧客行動の変化が進み、新しい顧客の開拓は業界全体で厳しさを増す。日本生命の場合、中核の営業職員が23年4〜12月に獲得した新契約の保障額は前年同期から10%減った。19年4〜12月期比でみると5割近く減少している。ニチイ学館を傘下に持つニチイHDの買収で新たに参入する介護や子育ての領域を専門とするライフサポート事業部を24年度に新たに設ける。ヘルスケア分野とあわせた非保険領域全般について、これまでグループ全体の経営戦略を取り仕切っていた佐藤和夫常務執行役員(24年度から専務)を担当に配置して強化する。新中計には保険契約者に対する配当性向の目標を現行の50%程度から60%程度に引き上げた。2023年度決算では個人保険の契約者配当を2年ぶりに増やす方針だ。配当対象となる契約は約600万件で、増配額は240億円とする。25年度に導入を控える経済価値ベースの新しい資本規制では現行制度に比べて財務の透明性が高まる。成長に向けた資本投下や契約者への配当の拡充、健全性確保とのバランスをどう取っていくかがこれまで以上に問われる。