拝み腹

灰の路を辿り

流し目如来

私を嫌ってくれませんか

堕堕 底から

いつまでも死の唄を

手と手と目と目

脳膜香炉

斯く或る畜生と修羅

三界、恙無く

梟巫女と鴉乙女

絶唱

 

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[拝み腹]

 

お詣りしてください

そのお腹を開いて手を合わせてください

取り出してください

そのお腹を開いて声をあげてください

御水で清めなくては

なりませぬ

その背中のその太腿の蚯蚓模様

喰い込み埋もれ合う

るらら

明日は晴れましょう

忘れて生きましょう

 

羅刹女郎「成せ 食ろうて 笑え」

取り上げ「たわいなし はづかし」

脳膜浴び「今生の悦 抱腹絶唱」

 

阿鼻 阿鼻 阿鼻 喝采 喝采 喝采

 

次の腹から籤を引きます

鯨幕ぐるりに這わせて

泣き囃子が取り囲み

寒け拍子がもんどり打って

高い高い 放り上げます

飛沫燦々 歓声が迸ります

おや

 

次の告別が控えております

 

 

[灰の路を辿り]

 

灰と紫陽花

口を寄せて蜂鳥

 

ゆるしてね

戻らないこと

改める退屈と死と朽葉

 

十三の姉の臓器

尊勝 陀羅陀羅尼

轍を辿る 雑音がおてて遊び 待っていた

 

見て 帰ってくるでしょう

綺麗だったはずの

抉る胸 音にならない幽けき絶唱

 

交差する遊宴 明暗取り取り妖幻郷

真っ逆様に手伸ばして 引き寄せては裂く裂く叫び

美しく溶けてるお顔

恍惚というような味がした

 

四方囲む目 喉の奥生えてくる指

昨日までを全て吐き終えると

苦しくて 愉しくて 寂しく滲む安息

追懐の土塊を掬うけれど

流れて昨日へ還っていく

砂になるまで呼吸を止めて

命 命数えて 忘れたカタチを

あなたのカタチヲ

 

 

[流し目如来]

 

喪服の列が額ずいて

傅いても引き摺られるまま

蛇の目の斑に眼球をばかり

お上がりあなた 好きなものばかり

穢れを禊ぎ 季節が凍っていく

価値あるものを一つ 彼方の入れ物へ

朽ちてゆく供物 手を振る亡霊

参拝 与太である 禮拝 迂愚である

 

同じ朝が襲っても

変わらぬ脈動

過去は無口に業を見せびらかし

取り返せ 取り返せと

しめやかに絶唱を

荊の戴冠 微動だにせぬ

絞首して 拘束して

身慄い相観 悲壮逆剥ぎ

警鐘して 傾倒して

 

一番遠くの一番近く

全生命は由緒により 伽藍の堂に聚合し

唯 坐します其れが

慈愛と侮蔑 哀惜と嘲笑に塗れた其れが

其れらを観る

絶対唯一の死を撫でながら

 

 

[私を嫌ってくれませんか]

 

腕を差し出して ほら

投げた身道連れに

あなたを生み 生まれた私

惑星が手に留まり微笑む

朝な夕な目覚めて眠る世界線

唯一のあなたが影に成る

 

私を嫌って 私を解いて

もう充分 手にしてきたでしょう

内側から覗いてる小さなままの私を

打って 弄って

大きな声で嗤って 其の焔で炙って

そして灰も振り払って忘れたらいい

 

咲いている花の名を呼べない

咲む小さな顔に笑みを返せない

一緒には行けない

私は夜 影を映さない

 

あなたがあなたである限り

真っ直ぐに在るものを

太陽のように直視できない

振り向いたあなたの顔が剥がれていく

 

その瞳が綺羅綺羅 怖いから

 

 

[堕堕 底から]

 

仏心を降ろす

なんて冷たい樹木だ

ありがちな人を見下す目で

伸びる腕 こっちへ来いよ さあ平伏せ

もう散々無邪気に 舐めては噛んで

歪み 顔に爪を這わせて 苦しくは無い

縫い合わせて元通りに

遊びみたいに

いついつまでも 人物の登場しない

当然の帰結 雨だ

高楼に籠もる童 唾棄してくれ

名状し難い

あはははは 手折られ

寂しい死が蔓延し ぐしゃどろどろ

 

歌え 歌え 仏の堕胎

 

 

[涎]

 

首が来る 階段を登り

宵は明けずに早足で

雨の音 よく聞け 厭な気配

 

-転換-

櫛削る女 襖を開ければまた襖

襞の壁 のたうち粘膜

鏡の中に 顎の無い

 

襖を開け

襖を開け

襖を開け

襖を開け

襖を開く

 

にやりと 垂れる口唇

視界を埋める鱗

嬰児を捻じ切って唄う天女

目が 醒めない

どれだけ哭いても

太陽は 昇らない

 

-転換-

絶息する女 泥に頭を沈めて

動かない時計 かち こちり

生きているのが禍い

 

泣き喚く子宮

泣き喚く子宮

泣き喚く子宮

泣き喚く子宮

泣き喚く犠牲

 

凍れる夜の埋み火

遍く愛の裏切り

名前を詠みあげる者は

最後に

ひとり

母であった

 

後生ですから

悲鳴だけ 悲鳴だけ

あなたの塊 骨を拾わせて

 

 

[いつまでも死の唄を]

 

ぼぅ ぼぅ ぼぅ

年に一度咲く それは

誰よりもあなたに似ています

沈み浮かぶ朧が わたしを睨めつける

泥土より愛を認めて

 

かんからからり とつとつと

夜一面に咲く それが

赤い眼を腫らして言祝いで

翻す糸を紙垂 手に手にさして

潰れる程に絶唱する

 

さやさや さや

戦慄きを止めて

風が凍っていけば

彩が溶けていけば

幾片に散らばるわたしたちを

 

一人残さず忘れて

 

とんからからり ぽつぽつと

一面に絶え連なり

千切れた音で抱き締めて

白衣の崩れ灰昇る あやし涙

祈れども 殺された絶唱

 

 

[手と手と目と目]

 

断崖の鴉 夕べは良く眠れたかい

疎通 由々しき雨が降る 合掌の雨だ

何奴も此奴も散漫だ 嘆かわしい

薄布を被せ懺悔している

心拍の鳴り 粗目しくうねり

下に突き刺す 下に突き刺す

来迎 えも言われぬ叫び

読経の群れが来る

気休めだ 埋めてしまえ

七日過ぎたら 沸いて出る

此れは此れは 畏れ多い吐き溜め

絶対と云った 薄ら寒い繰言

懐手で愛でる 流し目に堕す

阿耨多羅三藐三菩提

 

 

 

[脳膜香炉]

 

香しいことお迎えに うつら うつら

すがる縁 咲き誇るうてな

境涯は一掃されて 諾々と唱う愛を憎を

ひとつふたつ数えては 失い夜陰に紛れてみる

深層より のたうつ言葉を添えて

胸膜より 零れたしめやかな葬儀

鈴鳴り 雅な嗚咽

此の侭最果てへ辿り着ける

安楽と快楽の花 満天の火輪よ

御手を捧げ 叶いませんよう ぱち ぱち

亡く哭く子等も濁流へ

おいそれとは言えませんね

神経の裂けていく音

髄で見蕩れる其のかんばせ

 

 

 

[斯く或る畜生と修羅]

 

一つまた一つと還り来る過去

球体となった澱が膨らんで

額をこじ開け 嬉々として舌を出す

もんどり打つ裸体を唯

眺めて微笑んだ修羅

聴衆に拍手を為さしめよ

 

我楽多を漁り腐汁を吞む畜生

絶叫する影を引き結び

雅やかな悦 成り損ないを贄として

眺めやる妄執 是非も無し

連鎖する絶唱

地の底から我先と駄々を捏ね

 

樹上に喋れる椋の全て罵声だ

宜なるかな

ものが通り 魔が刺して

夥しく罪科の遥かより降る

淫らに浴びせよ

気味悪く甘たるき汚穢を

絶景と見える

雲間より流るる万億の

嘗て人と呼ばれた欠片

 

 

 

[三界、恙無く]

 

偽りの礼装が垂れて久しく

鞠風船を霊前に並べて膝つき

車を送る 薄寒い途を

見つけた暁 感じ居ります

悲壮を襲て 嗚呼 明日も在るそうです

拾い残した脈が喚きますか

無言の奏で 轟々堂々

 

烟の迷いふらり火様 鳴く鹿の諡号を唱える

炯々として 見送る袂に雫は落ち

繰り返す ばいばいばいばい 

参道間宮に真の降りし刻限には

巌の標に平らかな 明日が来るのですか

陽の唄を抱き止めていますか

無限の調べ 煌々滔々

 

君と死と命と我ともに恙無く

 

断って切って舞って這ってみたとて 愛さらばえて野辺に幕なし

 

 

 

[梟巫女と鴉乙女]

 

おいでと呼ばう 就いて去かないで

障子の陰で 朝まで語る口が言われました

女童の眼差しより近くに在り

その指を折りて数えるものは

密かな蠱惑を携え

双手に佇まう宵宵の嘴

眦浴びて 静かに終を看取る

 

転び見し暗がり 雛の水葬に戯唄を

帷に歪み 往く裾は朱けに染まりて

唇に寄せて咲く 裂いて顎を並ぶ

断頭を掲げる女達

 

縋り寄る全盲の化粧女

吐息と絡め蛇腹折り

死に臨む拍動 霞に遠く

夢を掬う貘 枕を返す鬼が四肢を封じ

鴉と梟の戯れ紡ぐ経文

死出の輩には百億重の汚泥

おいでて おいで でておいで

目の中に生える 無数の突起

篤と視よ 遍く命の絶唱が

虚空蔵を灰と悲涙で埋め尽くす様を

 

 

 

[絶唱]

 

雨が降りだすと

思い出さなくて良いことばかりが

コツコツ 扉を叩く

寄り添ってくれる 大粒の雨だ

 

嘘つきで 滑稽な訳知り顔

幸福を詰めた走馬燈が映される

手を繋いで夢見ましょうずっと一緒にね

 

影絵が踊り出す するすると回ってる

泣いてしまえれば楽だと思うけど

もう泣き方がわかりません

 

こっちを見ないで

私はあなたの思う程 私の形をしていない

爪、指、両の手首は落とされた

 

世界が吐いた空虚を吸って

破裂する

暗い暗い太陽が私を火炙りにする

観客は誰も彼も知った顔

死んでゆけるのは何て素敵なことでしょう

おやすみなさい 坊や

おやすみなさい 神さま

おやすみなさい 世界に坐します

遍く幸せな人々

 

轟音

金切り

命乞い

千切れる悲鳴

最愛の断末魔

滅び去れぬ業罪の世に